生成AIの登場によってサイエンスコミュニケーションはどう変わるのか。それぞれの立場からの議論。
これまでの総括論文:本グループが出版してきた10本の論文を総括して紹介。その上で、日本における理系女子枠の問題点を指摘した。
ビッグサイエンス(大型科学)の成功事例として素粒子物理学のスーパーカミオカンデシリーズの歴史を紹介し、日本学術会議のマスタープランと文部科学省のロードマップの両者の協力により、大型科学の選択が進んでいたことを紹介。また、その時期の研究者と社会の両者とも「研究者合意」がもっとも重要であることをデータを用いて示した。さらに大型加速器計画ILCについて数か年にわたって行った地域別の認識調査の結果を示した。
AIで歌手をよみがえらせるという、注目が集まった「AI美空ひばり」。日本国内でも賛否が分かれた。これについて、ジャンケレビッチの”死の人称”を用いて論じた、意欲的なAI倫理研究。
日本のポップカルチャーは著作権の侵害を問題視している。労働搾取も繰り返してはいけないと述べる。
日本の政府によるCOVID-19対策支持、政府に助言をする専門家信頼を、第1波と第6波で測定した。専門家信頼は与党支持者の方が野党支持者よりも高く、第1波と第6波で傾向は変化しなかった。一方で大学の研究者に対しての信頼は与党支持者と野党支持者で違いはなかった。
EとLとSを測定する3つの項目(論文2の結果)を用い、日米独で4つのシナリオを測定した。これを用いて、ELSの3次元の中で、人々を意見の傾向の異なる4つのグループに分けることが理想的であることがわかった。今後、議論の際などにこの4つのグループ分けが有用であると考えている。
AI倫理のELS尺度:ELSIのEとLとSの併せて13項目を用意し、4つのジレンマシナリオについて日米で測定を行った。特徴を分けるのは国、年齢の順であることがわかった。また、重要な項目はEとLとSの1つずつに絞り込むことができるとわかった。ELSIを元にしたAI倫理測定が可能かもしれない。AI-decision tree解析でAI倫理を扱った点がユニークである。
オクタゴン測定の提案:AI倫理の測定を、36のガイドラインを分析した研究が共通部分として抽出した8つの項目を、AI倫理を測定する軸として使用することを提案した。また、知識があるほど、年齢が高いほど、男性よりも女性の方がリスクに対して慎重であることもわかった。
情報提供実験:中学1年生の生徒に、理工系の就職ニーズに加えて、平等社会、女子は数学が得意と言う情報を読んでもらうと、理工系への進学意欲がますことがわかった。社会実装に活用するための研究である。就職情報は良く紹介されるが、これに加えて数学ステレオタイプを打ち消す情報と、平等情報は有効である。この研究設計は以前の「モデル論文」に基づいている。
パイプライン論文:小中高を通じて、物理学会員は物理が好きだったが理系大卒では中学で物理が嫌いになる傾向があり、特に女性でその傾向が強いことがわかった。また、博物館や科学雑誌が好きだったり、小学校で物理や数学が好きだと高校での物理選択に影響があることがわかった。さらに物理学を研究する女性は数学ステレオタイプが低いことがわかった。
能力論文:数学や物理学な必要な能力とは何かを論じ、それらを7つの能力に分類した(倫理的思考力、計算能力、記憶能力、社会のニーズをとらえる能力、豊富な知識量、物事を深く考える能力)。特に論理的思考力、計算能力が必要と認知されていることがわかった。さらにそれらのジェンダー度を測定した結果、論理的思考力、計算能力の男性イメージが強いほか、日本はそれぞれの能力が男性的であると回答する人がイギリスと比較して多いことがわかった。
高校生性役割分担意識論文:数学能力に関する論文を多くレビューしている。その上で、「男は外で働き、女は家庭を守るべきである」について、そう思わないと回答した女子のほうが、そう思うと回答した女子よりも理系進学が多いことを示した。高校生の性役割分担意識を取り除くことは、理系進学についても有効であることが示唆された。
モデル論文:日本に根強い数学や物理学の男性的イメージを説明する新モデルを提案し検証した。物理などの分野を大学で学ぶ女性が少ない要因を3つにまとめた先行研究を利用し、本研究ではさらに要因4 (性役割についての社会風土) を加えて男性的イメージを測定した点に新規性がある。新モデルに基づいて、インターネット調査を実施した結果、要因1の 「職業」、「数学ステレオタイプ」、「頭が良いイメージ」 が数学や物理学の男性的イメージに影響することに加え、要因4の要素のうち、「女性は知的であるほうがよい」ことに否定的な人ほど数学に対して男性的イメージを持つことがわかった。
日本のコロナ渦で、人気漫画「ちはやふる」の作者と新型肺炎サイコムフォーラムが協働し、感染予防や自粛警察の問題を背景にジェンダーの課題等、多様な背景を持つ人への想像を促すメッセージを発した。多岐にわたる専門分野の研究者が集うフォーラムを活用して、科学的助言をまとめる作業は作品の人気と作者の卓越した言葉と共にSNSから波及した好事例となった。
キーワード論文:STEMのイメージはどのようなキーワードで構成をされ、それらのジェンダーイメージはどの程度なのだろうか。本研究では、オンライン調査によって、科学の 6 つの分野(物理学・化学・機械工学・情報科学・数学・生物)に対して日本人が持つ代表的なキーワードと、各分野のジェンダーイメージを調べた。その結果、たとえば物理学はガリレオ、アインシュタインなどの人物名のほか、力学、電磁場、相対性理論などの言葉が選ばれた。さらに日本の人は6 つの分野に対して男性的イメージを持つこと、また平等主義的態度が低い人ほど特に物理学・化学・生物学に対して男性的イメージを強く持つことが分かった。
一般イメージ論文:STEM を含む 18 分野に対するジェンダーイメージを測定した。学術分野に対する性別適正のイメージについて、女性は看護学、男性は機械工学に向いているというイメージが強く、性役割に対する平等主義的態度のレベルが低い回答者ほど、看護学が女性に向いている、STEM(科学・技術・工学・数学)に関する分野は男性に向いているという傾向が見られた。
親論文:娘を持つ親を対象に、学術分野によって支援の差があるかを研究した。調査対象はすでに大卒の女性を育てた親であり、彼らは女性の理系進学に協力的であり、分野では薬学についで情報科学への賛同が多いことがわかった。情報科学は女性が極めて少ない分野であるが、就職が大変良いことを反映した結果であると見ている。また、男女平等意識の低い親は、女性の大学進学に否定的であることもわかった。
東日本大震災の後、広く異なる分野の研究者が集まり、科学的助言をひとつの声、ワンボイスにまとめあげることは迅速性に困難があった。ワンボイスで選択の余地が狭まる危険性があり、状況によってマルチボイスを妨げる必要性は必ずしもない。SNSには大量の玉石混交の情報が流れている。その中で迅速に信用できる科学的助言を発出する必要がある。情報の質を担保するため、相互チェックが可能な専門を同一するグループによって行うが好ましい。これを「グループボイス」と名付けてその概念を提案した。
クラウドファンディングを研究資金として活用する研究者は、これを新たな科学技術のパトロネッジ(”第4のファンディング”と名付けた)と位置付け、また研究のアピール、研究の面白さを伝えることに重点を置いていることがわかった。(2015年科学技術社会論学会研究奨励賞テーマ: 科学のクラウドファンディングの可能性と課題)
ピアレビューを受けずに社会から支援を受ける科学のクラウドファンディングは、新しいタイプの「クラウドが支援する科学」(“crowd-supported science”と名前をつけた)を生み出す可能性があることを指摘した。同時に、クラウドファンディングのプロセスに注目をし、政府予算を得るためには通常行われる予算付けのための審査(例:科研費の審査)がないことに注目をした。科学論では論文化をする際の「ジャーナル共同体」が専門か否かを判別する重要な機能として論じられてきたが、これに加えて、予算を配分する時点での「予算共同体」("Budget-funding Community"と名前を付けた)が従来の研究プロセスでは重要な役割を果たしていることを指摘した。(2015年科学技術社会論学会研究奨励賞テーマ: 科学のクラウドファンディングの可能性と課題)
日本において、所謂「欠如モデル」を定量的に検証した研究成果である。日本においても、科学リテラシーだけは不安の大部分を説明することができないことを明らかにし、欠如モデル批判が妥当であることを確認した。
東日本大震災の後、科学コミュニケーターの活動が限定的であるとの批判があった。職業的科学コミュニケーターを調査したところ、批判は妥当とする人が8割を超え、活動に限界を感じた人は5割にのぼった。その主な理由は、リスクコミュニケーションのスキル不足、通常扱っている専門性と異なる科学であったと、感情の波が激しい中で発言することが困難であること、つまり「スキル・専門性・感情」の3つの壁があったことを明らかにした。
51の代表的なハザードに対して、東日本大震災の後の2012年とそれ以前2008年で、不安が高まったもの、低下したものを比較した。震災後の2012年に以前よりも不安が高まったのは、原発事故、地震、そして年金問題だった。他の多くのハザードは、以前よりも不安が低くなった。
パッケージを展開 国民の支援をいかに得るか、大型科学への支援を測定した。
東日本大震災の後、子育て世代の低線量被ばくについての不安は、知識不足よりも、誰を信じて良いかわからないから、政府不信から来ていることを明らかにした。また、関東や関西と比較して福島の女性に不安度が高いことを明らかにし、その背景を議論した。
21世紀に入ってからのビッグサイエンスは、ヒトゲノムプロジェクトに代表されるように物理系に限らない他分野に展開した「第2次巨大科学」であることを指摘し、その上で、日本のビッグサイエンスの問題点を論じた。