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超新星2005cz
図1: すばる望遠鏡による超新星SN2005czの画像。 撮影日は2005年8月10.3日UT、視野は約3分角×2分角。矢印の先が超新星です。超新星の右上に写っている天体は、超新星が属する銀河 NGC4589。
画像のダウンロードはこちら: この画像を利用される場合は、「国立天文台すばる望遠鏡提供」 と明記していただくようお願いいたします。


星図
図2: 超新星SN2005czの発生した周辺の星図(copyright: StellaNavigator/AstroArts Inc.)。超新星SN 2005cz は、図の中央付近、りゅう座の方向で、地球から約1億光年のかなたにある NGC 4589 という楕円銀河に現れました。 この画像を利用される場合は、「(c) StellaNavigator/AstroArts Inc.」と明記していただくようお願いいたします。


概要


広島大学宇宙科学センター 川端弘治准教授、東京大学数物連携宇宙研究機構 前田啓一特任助教、野本憲一特任教授・主任研究員、田中雅臣研究員らを中心とする研究グループは、アマチュア天文家である板垣公一氏が発見した暗くて特異な超新星SN2005czに対して、すばる望遠鏡などを用いて詳細な観測を行いました。観測の結果、この超新星は超新星爆発によって生涯を終える星の中で最も軽い(太陽の10倍程度の)種類に属する星の爆発であることを初めて突き止めました。そのような超新星爆発は理論的には予測されており、かつ宇宙で発生する超新星爆発の多くを占めるはずですが、現在まで観測例がありませんでした。本研究によりその性質が明らかになったことで星の進化理論の検証につながるほか、超新星が宇宙の進化に与えた影響を研究するうえでも重要な手掛かりになると期待されます。


この研究成果は英国科学学術誌Natureに掲載されます。


発表雑誌:Nature 2010年5月20日号
論文タイトル:A Massive Star Origin for An Unusual Helium-Rich Supernovae in An Elliptical Galaxy
        (邦訳:楕円銀河に現れた特異なヘリウム過剰な超新星は大質量星が起源である)。
著者:川端弘治、前田啓一、野本憲一、Stefan Taubenberger、田中雅臣、Jinsong Deng、Elena Pian、
     服部尭、板垣公一

解禁日:平成22年5月20日午前3時(20日朝刊より)


解説

1. 星の進化・超新星の理論と未解決問題

 星の進化の理論計算によると、太陽のような星は、生まれたときの質量に応じてその生涯が決まります (図3)。太陽質量の約8倍を超えない場合には静かにその生涯を終えますが、それよりも重い星は最終的に自分自身の重力によって中心部がつぶれ、その際に大爆発を起こして明るく光り輝くと考えられています (*1)。夜空の何もないところに突然、昼間でも見えるほど明るい天体が現れる現象は、古くから超新星と呼ばれてきましたが、これはもともと暗くて見えなかった星がその生涯の最後の超新星爆発により光り輝いたものだと解釈されています。昼間でも見えるほど明るい超新星は、我々の銀河系内で現れるもので、そのような超新星は1604年以降見つかっていません。しかし、遠方の別の銀河で発生する超新星は、最近では年間数百個も発見されており、その詳細な観測から、恒星の進化や超新星爆発の研究が飛躍的に進んでいます。


 太陽のように"単独"な星は爆発時、水素からなる外層をもち、そのような超新星爆発はその観測的性質からII型超新星と呼ばれます(*2)。一方、星がお互いの周りを回りあう相手の星を持っている場合("連星"系をなしている場合)、進化の過程で相手の星に水素外層をはぎとられ、結果としてヘリウムからなる外層を持つ星として爆発することが起こりえます(*3)。このような超新星爆発はIb型超新星と呼ばれます(図4)。


 宇宙には軽い星ほど数多く存在します。したがって、太陽の約8−12倍程度の質量をもつ星は、超新星爆発を起こす星の中では最も数が多いはずです。また、宇宙の星の多くは連星系をなすため、このような星の多くはIb型超新星爆発を起こすはずです。一方、現在までこのような超新星−太陽の約8−12倍の質量の星を起源としたIb型超新星爆発−は観測されていません。観測されている(重い星を起源とする)超新星はみな12倍の太陽質量を超えるものばかりなのです。このような星は本当に爆発するのか?それが爆発しないとすると星の進化の基礎理論に大幅な修正が必要です。さらに、天文学の多くの分野で、このような超新星は数が多いという予想をもとに理論が構築されています。これらの星が実際には爆発しないとなると、天文学の様々な分野で修正が必要となるため、その末路−爆発するか否か−は星の進化という天文学の一分野を越えた重要な問題です。


  星の進化
図3: 星の進化と超新星の理論の概略。太陽の8−12倍程度の質量の星は最終的に超新星爆発を起こすとされているが、爆発後の観測ではそのような確証が得られていなかった。


連星
図4: 連星進化と観測される超新星のタイプ。太陽の8−12倍程度の質量の星は、単独の場合はII型超新星になる。連星の相手がいる場合、水素外層が相手の重力によりはがされて、ヘリウムを主成分とした星になる。このような星は、最終的にIb型超新星になると予想される。


2. 超新星 SN 2005cz

楕円銀河で発生したIb型超新星−その奇妙な振る舞い

 超新星2005czは超新星ハンター、板垣公一氏(本論文の共著者)により、2005年7月17日(世界時)に発見されました(IAU Circular #8569)。この約10日後のD. C. Leonard(当時、カリフォルニア工科大)によるケック望遠鏡を用いた分光観測で、SN 2005czはIb型であると同定されています(IAU Circular #8579)。この超新星は、通常重い星は存在しないとされる(したがって重い星を起源とする超新星は発生しないとされる)楕円銀河で発生したという点で奇妙なIb型超新星でした(図1図2)。板垣氏により撮像観測されたこの超新星の発見時の等級は、絶対等級で約-15(マイナス15)等級と超新星としては非常に暗いものでした。本研究グループは前述の分光データ(スペクトル)から発見時の超新星は最大光度後15日程度たったものであると結論づけました。これを考慮すると、超新星SN2005czは最も明るい時でも他の同型の超新星の五分の一程度の明るさにしか達しなかったことが判明しました(図5)。同研究グループは、さらにすばる望遠鏡およびCalar Alto望遠鏡により、発見後15−20日後に撮像観測を行いました。その結果、この超新星が通常の超新星よりも急激に減光していることが判明しました。


すばるによる後期分光観測−謎は解けた

 この超新星の正体を探るべく、本研究グループはすばる望遠鏡による観測を行いました。超新星により放出された物質は宇宙空間への膨張を続けますから、時間とともにすかすかになっていきます。爆発後、半年間程度はまだこの物質は濃く、私達はその内部、中心近くにある物質(もともとの星の中心近くにあった物質)を見通すことができません。半年程度たって初めて、中心付近から出た光を直接検出することが可能になります。一方、Ib型超新星は爆発の際に生成された放射性元素であるニッケル56が崩壊して鉄になる際にでるエネルギーにより光り輝くため、時間がたてばたつほど放射性元素の量が減って暗くなってしまいます。したがって、このような観測は世界最大級の望遠鏡でしか行うことができません。


 本研究グループは、すばる望遠鏡により、発見約半年後の分光観測をおこないました。そのスペクトルは、通常のIb型超新星と異なる奇妙なものでした。通常もっとも強いはずの酸素の輝線が非常に弱く、かわりにカルシウムから放出される輝線が非常に強いというものだったのです(図6)。これにより、超新星SN2005czの奇妙な振る舞いのリストにまた一つ項目が加わりました。この超新星の正体はますますわからないものになってしまったのでしょうか?実は、このすばる望遠鏡による分光観測結果こそ、すべての謎を解く鍵だったのです。


 酸素からの放射が弱くカルシウムからの放射が強いという後期スペクトルはそれまで観測例がありませんでしたが、実はその強度比は爆発前の星の質量に依存し、特に太陽質量の12倍より軽い星の爆発ではカルシウムからの放射が卓越することが理論的に予想されていました。これは、12倍より重い星の爆発では決して現れないユニークな特徴です。つまり、この後期スペクトルから、この超新星の爆発前の星の質量が8−12倍程度であったことが判明したのです。このとたんに、それまで謎だった超新星SN2005czの様々な奇妙な振る舞いの原因が理解されました。
  • 楕円銀河で発生した:
    この超新星の発生した楕円銀河は、通常の楕円銀河とは異なり、宇宙年齢に比べてごく近い過去(一千万〜一億年前)に星形成を起こしたことがわかりつつあり、最後の星形成の生き残りが太陽の10倍程度の質量の星であるという証拠があります。
  • 急激に減光した:
      同シナリオでは、超新星により放出される物質は少量であり、多くとも太陽と同じくらいの質量しか放出されません(より重い星の場合は、太陽の数倍程度の質量が放出される)。 放出物質が少ないと、超新星は急激に減光します。
  • 通常の超新星の5分の一程度の明るさ:
      これは、超新星により生成・放出された放射性元素56ニッケルが少なかったとして理解できます。
これらから、本研究グループは、超新星2005czが8−12太陽質量の“最も軽い星”を起源とする超新星爆発であると結論づけました(図7)。本質的な光度は暗いながらも、この超新星が1億光年という割と近い銀河で発生してくれたおかげで、世界最大級のすばる望遠鏡を用いることでようやく爆発中心を見通す観測が可能となった、と言えるでしょう。また、その暗さと急激な減光は、このような超新星がいままで発見されていなかったことの原因の一つであると考えられます。


  光度曲線
図5: Ib型超新星2005czの明るさの進化と他の超新星との比較(縦軸=明るさ、横軸=爆発からの日数)。2005cz(赤丸)は他の超新星よりも暗く、かつ早く暗くなってしまった(*4)。


  スペクトル
図6: 超新星2005czのすばるによる後期スペクトル(赤線)を他の超新星と比較したもの。通常Ib型超新星では酸素からの放射([O I]のラベルのある輝線)が最も強いが、2005czはこの放射が非常に弱く、代わりにカルシウムからの放射([Ca II]のラベルのある輝線)が卓越した。


ニッケル56
図7: 現在までに爆発前の星の質量が見積もられている超新星(Ib、Ic、II型)に関して、その爆発前の星の質量(横軸)と超新星爆発により生成・放出された放射性元素ニッケル56の質量(縦軸)。質量は、太陽質量を1としたときの値。超新星の明るさはほぼニッケル56の量に比例する。超新星2005czは太陽の12倍以下の質量の星の爆発したIb型超新星の初の観測例となった(図中、一番左の赤い点)。また、その明るさは通常のものの五分の一以下だった。


3. 本研究のインパクト

星の進化理論の検証
 本研究により、宇宙の中で数が多いはずの8−12太陽質量の星を起源とする超新星が見つかったことで、星の進化理論が大筋で正しいことが検証されました。また、これが連星系進化の結果として起こるIb型超新星であることは、やはり連星進化と超新星の理論がやはり大筋で正しいことの検証であり、幸運なことに理論の大幅な修正は必要なさそうです。


天文学の様々な分野への波及効果−例:元素の起源や背景ニュートリノ
 この2005czは暗く、通常の超新星のせいぜい5分の1ほどの明るさでした。これより、爆発の際に新たに生成された鉄(放射性元素ニッケル56として生成される)の量も少なかったことが分かります。このような違いがなぜ生ずるか、まだ現代の超新星爆発の理論は解答を与えていません。これらが、現在の宇宙にみられる鉄等の元素の起源としてどのような役割を果たしてきたか等、実際の観測例が見つかったことで、星の進化の研究の更なる進展につながることが期待されます。


 また、このような超新星爆発は宇宙で起こる超新星の多くを占めると考えられています。宇宙の始まりには主に水素とヘリウムしか存在しませんでしたが、星の内部での核反応によって炭素・酸素等の重い元素がつくられます。これらの元素が超新星爆発によって宇宙空間に放出されるほか、超新星爆発の際にはより重い鉄等の元素が生成・放出されます。特に、10倍程度の質量の星の超新星爆発は、宇宙に現在存在する炭素等の比較的軽い元素の主要な起源であると考えられています。本研究の観測結果をもとに、今後これらの星で生成・放出される元素の定量的な見積もりが可能になると、これらの元素の起源の解明につながります。


 また、超新星爆発の際には大量のニュートリノが放出されます。宇宙で現在まで起こった多くの超新星から放出されたニュートリノは現在の宇宙・地球の周りにあふれているはずであり、これはニュートリノ背景放射と呼ばれます。この背景ニュートリノを検出する試みが世界中で行われており、数物連携宇宙研究機構でも神岡にあるスーパーカミオカンデを改良してそのシグナルを検出しようとしています。理論予想によると改良版のスーパーカミオカンデでこのシグナルが検出可能だと思われていますが、そのかなりの部分が8-12倍程度の質量の星の起こす超新星爆発に起因します。今回、このような星が確かに超新星爆発を起こすことが確認されたことは、背景ニュートリノ検出に対しても朗報です。

脚注

(*1)このように重い星を起源とする超新星爆発以外に、太陽の8倍以下の軽い星が白色矮星となり核反応の暴走により爆発する超新星(Ia型)も知られていますが、本稿では触れません。


(*2)超新星はその光を波長ごとに“分光”したスペクトルにより分類されます。II型は水素の強い吸収線が見えるもの、Ib型は水素の吸収線が無くかわりにヘリウムの強い吸収線がみえるものです。それぞれ、水素外層を持つ星、ヘリウム外層を持つ星の爆発だと考えられています。


(*3)比較的軽い星(太陽質量の約20倍以下)では、本稿で述べられているように連星系の有無がその超新星のタイプを決めていると考えられています。一方、より重い星では単独の場合でもII型、Ib型両方になる可能性があります。


(*4)図中、超新星2008haのみが今回報告された超新星2005czと似た特徴−暗く、早く減光し(図5)、かつ時間とともにカルシウムの輝線が卓越する(図6)−を示すことが知られています。一方、この超新星2008haは発見直後には超新星2005czとは異なるスペクトルを示し、最も「軽い星」の爆発ではないと考えられます。その正体は未解明です。


問合せ先


メールアドレスは_at_を@に変えて下さい。


川端弘治
広島大学 宇宙科学センター・准教授
Tel: 082-424-5765(研究室)
Email: kawabtkj_at_hiroshima-u.ac.jp



前田啓一
東京大学 数物連携宇宙研究機構・特任助教
Tel: 04-7136-6559(研究室)
Email: keiichi.maeda_at_ipmu.jp



野本憲一
東京大学 数物連携宇宙研究機構・特任教授/主任研究員
Tel: 04-7136-6567(研究室)
Email: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp



研究グループ


川端弘治 (広島大学 宇宙科学センター・准教授)
前田啓一 (東京大学 数物連携宇宙研究機構・特任助教)
野本憲一 (東京大学 数物連携宇宙研究機構・特任教授/主任研究員)
Stefan Taubenberger (マックスプランク天体物理学研究所)
田中雅臣 (東京大学 数物連携宇宙研究機構・研究員)
Jinsong Deng (中国 国家天文台)
Elena Pian (イタリア 国立ピサ高等研究員)
服部尭 (国立天文台 ハワイ観測所・研究員)
板垣公一 (板垣天文台)