講演者:今野彰 (東京大学 ICRR)
タイトル:z>7でのLyα光度関数の加速的進化とその物理的描像
アブストラクト:遠方の星形成銀河の1つであるライマンアルファ輝線銀河(LAE)のLyα光度関数の進化を辿ることは、宇宙再電離と銀河進化を調べる上で重要である。Lyα光度関数は、z=3.1-5.7では無進化である一方、z=5.7-6.6では減少していることが知られている。しかし、z=6.6とz~7.3の間では、Lyα光度関数は無進化であるという4m望遠鏡を使った研究(Hibon et al. 2010等)と、減少しているという8m望遠鏡VLTを用いた研究(Clement et al. 2012)があり、両者は対立していた。すばる望遠鏡を用いたz~7.3のLAE探査の研究(Shibuya et al. 2012等)もあるが、それらの研究では、Lyα光度関数の明るい側しか観測することができず、z=6.6-7.3の間での進化に明確な結論が出せなかった。そこで本研究では、輝線に対してより高感度なNB101を新たに開発した。それをすばる主焦点カメラに搭載し、合計106時間の深撮像探査を行うことで、z=7.3に存在する暗いLAEを探査することを目指した。その結果、過去のすばる望遠鏡を用いたz~7.3のLAE探査より約4倍深く、かつ過去のz=3.1-6.6のLAE探査と同等の深さにまで到達した。これによりz=7.3のLyα光度関数をこれまでに無い高い精度で求められ、z=6.6-7.3でのLyα光度関数の進化を調べることができた。Lyα光度関数をシェヒター関数でフィットし、z=6.6-7.3でLyα光度関数は>90%の信頼性で有意に進化していると結論づけた。さらに、Lyα光度密度を求めることで、z~7でのLyα光度関数の加速的進化を初めて明らかにした。UV光度関数はz~8で急速に減少している(Oesch et al. 2013等)ことが知られている。UV光度関数の進化は宇宙の星形成率の進化を反映していると考えられるため、Lyα光度関数とUV光度関数の間で加速的進化が起こる赤方偏移が異なることは、Lyα光度関数の加速的進化が星形成率の進化とは異なるメカニズムで生じていることを表す。本発表では、この加速的進化を宇宙再電離で説明できるかを考察し、Lyα光度関数の加速的進化の物理的描像について議論する。
発表スライド:(PPT)