アブストラクト:
rプロセス元素の起源天体は未だ明らかになっていない。連星中性子星合体は、rプロセスの有力な起源天体候補の一つである。連星進化計算からは、連星中性子星合体までに少なくとも1億年程度要することが示唆されている。しかし、これまでの銀河の力学進化を考慮に入れない化学進化計算からは、連星中性子星合体の低い頻度(銀河系で10^{-6}―10^{-3} /年)と長い合体時間(>~ 1億年)のため、[Fe/H] <-2.5にみられるrプロセス元素組成比(例えば[Eu/Fe])の分散を説明できないという問題が指摘されている。こうした問題は、階層的構造形成モデルに基づき、銀河系ハローがより小さい矮小銀河の集積によって形成されたとするならば、解決できる可能性がある。そこで本研究では、N体/Smoothed Particle HydrodynamicsコードASURAを用いて、矮小銀河の化学力学進化を計算した。rプロセス元素の起源天体としては、連星中性子星合体を仮定した。その結果、合体時間が5億年より短く、銀河系での頻度が~10^{-4} /年の連星中性子星合体で、[Eu/Fe] vs. [Fe/H]の観測値を再現できた。また、矮小銀河の力学的性質、金属量分布、質量ー金属量関係の計算値も観測値と矛盾のない結果が得られることも確認した。本研究により、[Fe/H] <-2.5における[Eu/Fe]の分散を再現するには、星形成領域(~10―100 pc)における金属の混合が重要な役割を果たしていることが示唆された。さらに、銀河ハロー形成初期(< 10億年)では、個々のサブハローの星形成率が10^-3太陽質量/年程度である必要があることも示唆された。