アブストラクト:
Colombo et al., 2014に代表される近傍銀河の観測から、巨大分子雲の質量関数の傾きが渦状腕においてきつく、それ以外の領域では緩やかであることが報告されている。一方で磁気流体シュミレーションから、巨大分子雲の形成には中性水素分子雲を多数回衝撃波によって圧縮する必要があることが示唆されている(Inoue & Inutsuka 2008; Heitsch et al., 2009など)。 これらの結果を踏まえInutsuka et al., 2015では、膨張するHII領域表面において中性水素シェルや中性水素分子雲が相互作用することで、多数回の衝撃波圧縮やその結果である分子雲形成を再現するモデル構築が行われた。このモデルでは、巨大分子雲の質量空間における連続の式を解いて得られる定常解が、観測されている分子雲質量関数のべきを再現している。しかしこの定式化には、大質量星形成や星団形成の起源として近年示唆されている分子雲同士の衝突が考慮されていない。そこで本研究では、分子雲同士の衝突を表す項をInutsuka et al., 2015のモデルに導入し、巨大分子雲質量関数の時間発展を銀河の様々な環境に応じて解いた。その結果、大質量星形成や星団形成として重要である分子雲衝突は、60Myr程度のタイムスケールで見た場合巨大分子雲質量関数を大きく変動させることはない、ということが示唆された。