アブストラクト:
銀河系中心近傍のCOなどの観測から得られる位置–速度図には、特徴的な平行四辺形の形状が現われることが知られている。この平行四辺形形状はガスの円運動の軌道成分だけでは説明ができず、バルジ中の天体が形作る棒状成分の重力ポテンシャルによる非円軌道成分を反映しているものと、これまで説明されてきている。一方で銀河系中心付近では、太陽系近傍の星間空間に比較してはるかに強い磁場の存在が示唆されており、Fukui et al.(2006)による磁気浮力による磁気ループの観測などからも分かるように、ガス成分の動力学にも磁場が大きな影響を与えるものと考えられる。しかしながらこれまで、磁場とガスの運動は別個の研究対象と捉えられてきた感があり、銀河系中心領域の磁気流体力学過程は詳細に調べられていない。本研究では、棒成分を考慮しない軸対称な重力ポテンシャルの存在下で3次元磁気流体数値実験を行い、磁気乱流による非円軌道運動の励起の可能性を精査した。遠心力と、銀河中心ブラックホール、バルジ成分、円盤成分の重力場、および、圧力勾配力の大域的な力の釣り合いの結果、回転周波数は動径座標に対して一般には単調依存とならない。結果として差動回転の強さが場所毎に異なり、差動回転強度により決まる磁力線の巻き込みと磁気回転不安定性による磁場増幅が非一様に起き、定常乱流状態となった後の磁場強度にもムラが生じる。このため乱流的磁場による角運動量輸送と磁気圧勾配力のムラが発生し、回転速度と比較して無視できない程度の動径方向速度が間欠的に生じる。その結果、数値実験から得られる位置–速度図にも、時間と共に変形を繰り返す平行四辺形が現れた。棒形状の恒星重力ポテンシャルが無くとも、磁場過程がガス成分の非円軌道運動を十分説明し得るということであり、この成果は銀河系中心近傍領域のガスの動力学における磁場の重要性を端的に示すものである。