アブストラクト:
"銀河形成の理論研究分野ではSmoothed Particle Hydrodynamics (SPH法)による流体シミュレーションが精力的に行われてきた。しかしながら、一口にSPH法といってもその具体的な実装方法には様々な手法が存在し、現在においても日進月歩で発展している。本研究で着目する銀河の化学力学進化を計算する上では、流体の接触不連続面を正確に捉える必要がある。しかし、SPH法には、接触不連続面において人工的な混合が発生したり、非物理的な圧力ジャンプが生じたりし、それが原因となって接触不連続面で起こるべき流体の不安定性の成長が著しく抑制されるという弱点がある。  本発表では複数の種類のSPH法のコードを作成し、それらの性能を比較することでそれぞれのSPH法が持つ特徴を見極め、接触不連続面における計算結果の妥当性を議論する。ここではClassical SPH (Monaghan 1992) に加え、変分原理を用いて定式化されたGrad-h SPH (Springel & Hernquist 2002)、Riemann問題の解を用いて近傍粒子との相互作用を評価するGodunov SPH (Cha & Whitworth 2003)、密度が陽に表れないよう定式化されたDensity-Independent SPH (DISPH, Saitoh & Makino 2013)のコードを作成し、衝撃波管問題やKelvin-Helmholz不安定性等の様々なテスト問題を解くことによりそれらの性能を評価した。その結果、Classical SPHやGrad-h SPHで生じた接触不連続面での圧力の跳びは、Godunov SPHやDISPHを用いることで抑制できることを確認した。また、短波長モードのKH不安定性の発生についてはいずれの手法でも確認できたが、長波長モードの成長はDISPHのみで確認でき、その他の方法では不安定性が人工的に抑制されてしまうことを確認した。  通常、SPH法で質量密度を評価する際には、近傍粒子の重み付き積分を実行する。本研究ではこれとは異なり、連続の式を用いた質量密度の評価を行うことができるコードの開発を行った。そして上記のテストを行い、様々な手法の比較検討を行った。その結果、連続の式を使用した場合のほうが、接触不連続面における密度の不連続性がよりシャープに保たれることがわかった。"