アブストラクト:
"多環芳香族炭化水素(PAH)は、およそ50−100個の炭素原子を持つ極めて小さいダストである。PAHを含む星間ダストは、光電効果を通して中性ガスを加熱したり、帯電し磁場とカップルすることで星・惑星系形成のガス動力学を支配するなど、銀河進化において重要な役割を果たす。そのため、PAHを含む星間ダストの形成・成長・破壊の理解は、銀河の進化を理解する上で重要である。さらに、PAHは、宇宙空間の有機物として生命誕生において重要な役割を果たした可能性もあり、この点からも重要な物質である。本発表では、銀河衝突が星間ダストに与える影響について報告する。Yamada et al. (2013, PASJ, 65, 103)において我々は、赤外線天文衛星「あかり」等の観測データから、赤方偏移z<0.1の星形成銀河では、赤外線光度が大きいほど、赤外線光度に対するPAH光度(PAH相対光度)が小さくなることを発見した。この結果と、赤外線で明るい銀河では衝突銀河の割合が大きいという先行研究の結果から、銀河衝突によりダストのうち極めてサイズが小さいPAHが選択的に破壊されている可能性を指摘した。本研究では、この「銀河衝突によるPAH破壊」シナリオを検証するため、SDSS可視光画像を用いて、銀河衝突と赤外線の性質の関係を調べた。銀河の非対称性などを調べることで、銀河衝突の有無と衝突段階を評価した。その結果、衝突銀河は非衝突銀河に比べてPAH相対光度が小さい傾向にあることが分かり、銀河衝突によるPAH破壊シナリオに矛盾しないことが分かった。さらに、衝突の初期段階より後期段階の銀河の方がPAH相対光度が小さい傾向があることが分かった。銀河衝突の間にPAHが徐々に破壊されている、又は、衝突の後期段階でPAHが著しく破壊されていることが示唆される。"