アブストラクト:
"銀河形成の最盛期から現在の近傍銀河への進化の大部分を含む赤方偏移1-2の時代において、銀河団銀河の変遷を詳しく調べることは非常に重要である。そこで、赤方偏移1-2の新たな原始銀河団探査として、すばる望遠鏡の新たな可視撮像装置HSCを利用する。HSCは従来のすばる望遠鏡の可視撮像装置S-Camの約7倍もの視野を持ち、現在その広視野による高い観測効率を活かし、非常に広範囲かつ深い観測を行っている(HSC-SSPサーベイ)。この広視野観測と、2つの原始銀河団探査法を組み合わせた、HSC-HSC(Hybrid Search for Clusters with HSC)サーベイを推進する。2つの原始銀河団探査法とは、 1. blue sequenceサーベイ:星形成銀河の放つ[OII]輝線を3枚の狭帯域フィルターで捉え、赤方偏移1.4-1.7の星形成銀河を探査する 2. red sequenceサーベイ:広帯域フィルターを用いて、銀河団銀河特有の、色等級図における赤色の系列を用いて、各赤方偏移に対応した色選択を行い、赤方偏移1-1.5の星形成を終了した銀河を中心に探査する であり、それぞれの銀河の密度超過領域を探り、原始銀河団を発見する。 このプロジェクトの初期段階として、まずCOSMOS領域においてRed sequenceサーベイを行い、その結果、COSMOSフィールド上のHSC一視野分の領域(1.77平方度)において, 密度超過が3σ以上でかつ色の分散が色選択の幅より有意に小さなred sequenceを示す領域21個をz~1の銀河団または銀河群の候補天体として同定した。さらにこの候補天体のスタッキング解析を、一般領域の差し引きとともに行い、銀河団中心領域の青い銀河の割合について調べ、z~0.91でfb=0.25±0.07という値を得た. これは、これはこれまでz=0.8の銀河団で測られていた青い銀河の割合とほぼ同じ値であった, 近傍の銀河団やz~0.3あたりの中間赤方偏移の値と比較すると, 全体として赤方偏移の増大にしたがってゆるやかに増加している傾向が見られ, 全体として昔ほど銀河団の青い銀河の割合が大きかったというブッチャー・エムラー効果の傾向がz~1まで延長しているとも解釈できる結果が得られた. 今後は, より波長の長いyバンドも用いることによって, red sequenceを用いた銀河団探査をより遠方の赤方偏移に拡張すると共に, HSC-SSPの進行と共により広い天域について行い、見つけた銀河団に対して分光フォローアップ観測を行っていく。また, 狭帯域撮像データを用いて青い星形成銀河([OII]エミッター)をプローブとした銀河団探査(blue cloudサーベイ)も組み合わせることで, 非常に大きく, 銀河種族のバイアスも少ない優良な遠方銀河団サンプルを構築し, 銀河団の星種族の研究を圧倒的な統計精度で調査していく予定である."