This Japanese translation is kindly provided by Hiroshi Iritani, Kyoji Saito and Yukinobu Toda.
English original is available at {\tt http://sergey.ipmu.jp/projects/jsps.html}.
目的
ファノ多様体およびその完全交差の新たな種々の不変量(ファノスペクトル,アペリ特性類,ガンマ類,フロベニウス指性数など)を厳密に定義する.それらの諸性質および関係を確立する.これらの不変量と関係をトーリック退化に適用することによりファノ多様体の完全交叉たちの記述やその予想を行う.ミラーの双有理変換の言葉でトーリック退化の全ての階層を理解する.Extremalローラン多項式を見つける.
研究計画
1.「量子モチィフのl進実現」
これはVasily Golyshev,Ludmil Katzarkovとの共同研究計画の暫定の表題である.ファノ多様体の量子モチィフの概念は未だ明瞭ではないが,モチィフの”実現”をアフィン直線上のD-加群であるDubrovinの構造接続をずっと洗練させた所のl進層の圏(又は大域的クリスタル,又はホッジ構造の変形)の対象として研究することが出来る.そのホッジ理論的実現は最近Katzarkov,
Kontsevich及びPantev等により非可換ホッジ構造の名の下に導入された.我々はある種のl進層をl進実現の候補者として導入し,それ等の性質やそれ等が引き起こすファノ多様体の不変量(新たな示性数)を研究する計画である.その層はN.Katzによって導入された、アファイン直線の混合積がテンソル積となるようなある種のテンソル圏の対象である.
2.「アペリ類とガンマ類」
最近の定式化{\tt http://sergey.ipmu.jp/zetagrass.pdf}ではアペリ定数の系を自然にファノ多様体のコホモロジーのレフシェッツ分解の因子に対応させ,それによってアペリ類(の原始部分)を定義した.報告者(Galkin)と入谷により提案された予想はアペリ類とガンマ類とを関係づける.我々はアペリ類を厳密に定義し,ミラー対称性予想に基づいてこの予想を証拠づけ,さらに共にグラスマン多様体の時には最近のKim/Sabbah/Ciocan-Fontanineと植田の結果を用いて我々の予想を証明する予定である.
3.「Extremalローラン多項式」
Extremal ローラン多項式はやや誇張して言うと古典的なdessin d'enfantの高次元化と考えることができる.我々は代数的トーラス上の関数でその臨界値たちが可能な限り近づいているものに興味がある.より正確には与えられた多面体PをNewton多面体としてもつローラン多項式L全体のなす空間を考え,Lのレベル超曲面たち{L=t}の与えるコホモロジー局所系の(スター拡張の)オイラー標数に応じてこの空間を階層化する.Extremalローラン多項式とはこの階層化におけるもっとも次元の低い層にあるローラン多項式のことである.特に興味があるのはオイラー標数が0の場合である.
Extremalローラン多項式の重要な役割はFano多様体(やスタック)のフロベニウス多様体に対応することである.Batyrevによるトーリック退化の理論を定量化するために我々はextremal ローラン多項式の系統的な研究を立ち上げる.研究はアルゴリズム的に実行され,多くの部分は計算問題である.さらに進んで概念的な理解に際してはEnckevortとvan Stratenの方法と類似のやり方でextremal ローラン多項式を解釈する.Extremalローラン多項式に付随する局所系のモノドロミーを調べることで,その局所系のモノドロミー保存変形が与えるフロベニウス多様体と同一のフロベニウス多様体を(Gromov-Witten理論から)与える(準)幾何学的対象のトポロジーを予言する.このテーマの系統的な研究は膨大な仕事であり,Alessio Corti, Tom Coates, Vasily Golyshev, Alexander Kasprzyk, Duco van Straten らの協力を得て行われる.
4.「ミラーにおける退化」
射影平面におけるextremal ローラン多項式についての我々の最近の研究により,トーリック退化の試みは当初想定したよりも遥かに一般の状況で機能する可能性があることが分かった.特に代数多様体の全ての(正規な)トーリック退化は,代数多様体の導来圏の構造(exceptional collectionの階層構造)と関連するある階層構造を持ち,導来圏においてmutationの役割を果たすある特殊なクラスター等積変換により互いに移りあうと我々は予想している.我々はこの現象の背後にあるクラスター代数を研究し,最も一般的で明示的なトーリック退化について調べていく予定である.これは特殊クレモナ群(極大トーラスの体積形式を保つクレモナ群の部分群)及び2次元の場合にAlexander Usnichによって創始されたその離散部分群を研究する際の新しい方法を必要とし,また与えるものである.まず初めに射影平面の場合にextremal Laurent多項式,退化及びexceptional collectionらが全てどの様にMarkovの三つ組から計算されるか明示的に説明する予定である.更にfull exceptional collectionを持つ幾つかの場合について,del Pezzo曲面や3次元射影空間から出発して調べていく予定である.