From nakajima@math.tohoku.ac.jp Thu May 6 12:20:26 1993
Path: tsuru!nakajima
From: nakajima@math.tohoku.ac.jp (Nakajima Hiraku)
Newsgroups: tohokumath.math
Subject: *木くんの質問に答える。(位相的場の量子論について)
Date: 3 May 1993 10:16:41 JST
Organization: Mathematical Institute, Tohoku University, Sendai JAPAN.
Lines: 98
Distribution: tohokumath
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NNTP-Posting-Host: tsuru.math.tohoku.ac.jp

元々の内容からだいぶずれてしまったので、subjectを変えました。 また、今回の記事も長くなってしまったので、ゆっくり腰を落ち着けて読んで ください。

In article kuroki@math.tohoku.ac.jp (Gen Kuroki) writes:

|おそらく、実2次元という低次元性のおかげで、共形場理論では
|normal product なんかで簡単にくりこみ可能になっているのだと思
|いますが、高次元だともっと複雑になるかもしれません。実際、高次
|元の場の量子論では通常くりこみが大変難しいものになっています。
|
|最近話題の topological quantum field theory (TQFT) では、その
|辺の事情はどのようになっているんでしょうか?

位相的場の理論(TQFT)について私の理解しているところを説明します。

TQFTとは、非常に簡単にいってしまえば、Feynman integral を使って多様体の (微分)位相不変量を構成しようというプロジェクトと思えます。 現在、WittenがTQFTといって実際に実行できているものには2つの種類があるように 思われます。

1) Feynmann integration するときに、非積分関数が計量によらないもの (例. Chern-Simons = Jones-Witten 理論)

2) 非積分関数は計量によるのだが、計量に関する変分をとると 0 になっている もの。(変分がexact formになってしまうので積分すると 0 といった感じです。) (例. Donaldson polynomial)

ここでは、2) の場合について説明します。この場合は何をやっているのか幾 何学的には非常に分かりやすいです。

構成しようとする不変量は、∞次元多様体上の階数∞のベクトル束の Euler class (の Poincare dual) といった感じのものになります。 (多様体の次元 - ベクトル束の階数 (= ∞ - ∞ !!) = 有限という状況を 考えています。) 例えば、Donaldson の polynomial invariant は、非常に簡単にいってしまえば 反自己相対接続のgauge 同値類の個数を数えているわけで、 (上の式の有限 = 0 の状況のときを考えるとそうなっています。)

∞次元多様体 = 4次元多様体 X 上の bundle E のconnection の gauge 同値類 全体の空間

階数∞のベクトル束 = ファイバーが、Ad(E)に値を持つ反自己相対2-form全体の 成す空間のベクトル束

そこで、connection (i.e., ∞次元多様体の点)に対して、その曲率の反自己 相対な部分をとることは、このベクトル束のsectionと捉えることができます。 したがって、

反自己相対接続のgauge同値類 = 上のベクトルバンドルのsectionのzero点

となって、(∞次元の幾何が有限次元と同じ様に全てうまくいっていると仮定して) めでたく Euler class が出て来ます。

一方、Euler classは Chern-Weil 理論を用いて(階数∞!)ベクトル束に定義された connectionのcurvatureを用いて、formとして表現することができます。よって、 そのPoincare dualはそのformを積分すれば良いわけです。しかし、∞次元多様体 の上での積分になってしまうわけで、そこで Feynman integral 登場というわけで す。

最初に「計量に関する変分をとると 0 になっている」といったところは、 form の deRham cohomology class が connection のとり方によらないということを 意味しているわけで、Chern-Weil 理論を思い出していただければ、formalにはどう いうことをやっているのか想像できると思います。

ここ迄やって来てやっと*木くんの質問に答えられるわけで、 不変量が有限になるためには、∞次元多様体が`コンパクト" 又は、そうでなくとも 階数∞のベクトル束の∞次元多様体の境界での振る舞いがおとなしい、といった 条件が必要になって来ます。
Donaldson 不変量の状況では、これは大体

「connection の列を与えたときに、その収束の様子を調べよ。」

ということになります。その極限 = ∞次元多様体の境界の点ということになってい ます。ところが、その極限がうまく制御できるのは connectionを取り扱うときには 一番最初にとった多様体 X の次元が 4以下のときだけなのです。 *木くんが低次元だからうまくいくのでは、といったことへの私なりの解釈は、以上 のとおりです。

ちなみに、この極限を制御する定理とは Uhlenbeck の収束定理のことです。(幾何の 人にたいする説明!) 多様体の次元が4より大きいときにも収束定理はあるのですが極限に出て来るものは ほとんど制御不能です。(B&*さんが苦労されているのもそこにあるわけです。)

ついでに自分の宣伝もしておくと、connectionの全体でなくて計量の全体についても 同じ様なことをして見ようというのは、自然な考えで (quantum gravity !?) 私 (と*&Oさん、加須栄さん)のEinstein計量の極限を調べるという仕事も、そういう 線にあります。このときも多様体の次元が4以下の時には極限がうまく制御できると いうことを示しました。

なぜ4以下だとうまく行くのかということについては、非線形解析が出て来るところ で、求められればいくらでも説明できますが長くなりそうなので、ここでは止めてお きましょう。

中島 啓


From nakajima@math.tohoku.ac.jp Thu May 6 12:20:36 1993
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Subject: Re: *木くんの質問に答える。(位相的場の量子論について)
Date: 3 May 1993 17:11:36 JST
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In-reply-to: nakajima@math.tohoku.ac.jp's message of 3 May 1993 10:16:41 JST

さて、前の記事の続きとして 1)のタイプのTQFTについて考えて見ます。
今回も大変長くなりましたので、ゆっくりお読みください。

このタイプのTQFTは、Chern-Simonsしか知らないのでその場合について 説明します。 (これは、この前の幾何セミナーで話したことのレジュメです。)

∞次元多様体 = 3次元多様体 M 上の trivial G-bundle の上の
connectionの全体

被積分関数 = exp(ik CS) (ただし、CSはChern-Simons functional。)
上の∞次元多様体上の関数となる。

これを、Feynmann積分してやったものが Witten の不変量です。 これを Z(M) と書きます。 なぜ、これが有限の値になるのか Witten による説明は次のとおりです。

1) 上の定義を境界付き3次元多様体のときに拡張します。
境界の2次元多様体上のconnectionを決めるごとに

∞次元多様体 = 3次元多様体 M 上の trivial G-bundle の上の connectionで、境界で与えられたconnectionになるもの の全体

として、被積分関数はそのままでFeynman integralを取ってやります。 すると、invariantは境界の2次元多様体上のconnectionの全体の空間 上の関数になっています。これも Z(M) と書くことにします。
境界の無い3次元多様体 M が与えられているときには、これを2つに切って M = M_1 \cup M_2 として、Z(M_1) と Z(M_2) との `内積" が Z(M) と なることが (formal に)証明されます。

よって 1) で Z(M_i) がきちんと定義されて、更に内積がきちんと定義 されれば、Z(M) はきちんと定義されたことになります。

2) 次に、Z(M_i)が実は、境界の2次元多様体 X 上のconnectionの全体の空 間上の関数というだけでなく、その中の非常に良い部分空間 (これを Z(X) と書きます。) に入っていることを観察します。それが、幾何学的量子化 の考察を経てconformal blockの空間であることが見抜かれます。 (どうもこの幾何学的量子化が私には今一つしっくり来ませんが.....)

但しここでは、

conformal block の空間 = Riemann面上の(semi)stable G-bundle の moduli space上の正則直線束の H^0

としています。(TUYのconformal blockの空間と同じであることは、正しいと 信じられていますが、数学的な証明が本当にあるのかどうか残念ながら私は 知りません。GITの基本原理が無限次元の状況でも成り立つか?というところに 困難さがあります。)

connectionの全体の空間から、moduli spaceに落とすところで、 Z(M_i) がゲージ群の作用である変換則を満たすことが使われます。 そこで、characterが出て来ることが直線束の切断になる理由です。
元々、境界の2次元多様体には、複素多様体の構造は入っていなかったわけで、 上のように conformal blockの空間を定義するためには複素構造を人為的に入 れてやらなければいけません。しかし、それが人為的でないことを保証するのが 次の結果です。(ちなみに、次元が変わらないことは vanishing theoremから容 易に従います。)

定理: Z(X)をRiemann面の複素構造全体の空間 = Teichmuler 空間上のvector bundleと思ったときに、そこには projectively flat な 接続が入る。
(TUY, Hitchin, Axelrod-Witten)

すなわち、Z(X) はphaseを除けば複素構造によらずに決まります。 phase が決まらないのは、量子化のときには良くあることです。 (しかし、このような Z(X) の定義は、いかにも回りくどく本来はもっとトポロジ カルな定義があるべきだと思われます。) このとき接続を入れるために、*木くんがいうところの 「normal product でうんぬん」に対応する操作が行われます。(ちゃんとcheckはしていませんが Axelrod-Wittenに書いてあるはずです。)

さて、なぜ不変量が定まるのかという問題は、

A) Z(X)がなぜ定まるのか?
B) Z(M_i) \in Z(X) はどう定まるのか?

という二つの部分に分かれました。

A) については、Riemann面上の(semi)stable G-bundle の moduli space がコンパクトだから、という以上の答えはありません。しかし、そのコンパクト 性には、前のときと同じ様に X の次元が 2 と小さいということが効いています。 (ここはまた非線形解析の部分です。)

B) については、明快な説明を私は知りません。しかし、決まると信じて 1) の 多様体を切り張りする操作によって一番簡単な Handle body のときから出発して 定義を与えることができます。

中島 啓









From nakajima@math.tohoku.ac.jp Thu May 6 12:20:40 1993
Path: tsuru!nakajima
From: nakajima@math.tohoku.ac.jp (Nakajima Hiraku)
Newsgroups: tohokumath.math
Subject: Hitchin's theory
Date: 2 May 1993 00:52:09 JST
Organization: Mathematical Institute, Tohoku University, Sendai JAPAN.
Lines: 41
Distribution: tohokumath
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NNTP-Posting-Host: tsuru.math.tohoku.ac.jp

今、Hitchinの論文を眺めているのですが、 (前から黒*氏が興味があるといっていたやつです。) その中にHitchinが自分で意味が良く分からないけど計算してみると、 出て来たといっているところがあるので、意味が分かる人(誰のことを いっているんでしょうか?)は教えてください。 代数セミナーで話すとしても、何も知らずに話すのは気が引けるので....
Hitchinの理論は、Riemann面の上のbundleのmoduli spaceのcotangentを 扱っています。 (本当はstabilityが面倒なわけで、そこを無視すると本質的なところを見失って しまう可能性があるんだけど、ここでは取り敢えずいわないことにします。)
moduli space上の微分作用素(D-module ?)のsymbolは、cotangentの上の関数 になっているわけで、cotangentのsymplectic geometryを調べようということ になります。(本当は、Riemann計量も入れているので誰かさんの好きな hyper-K\"ahler geometryを調べています。)

Hitchinの最初のobservationは、まずcotangentの上の関数達で互いに Poisson commuteしているものが、自然に構成されることを見ました。 (moduli spaceの次元と同じ個数の関数をうまく取って、vector spaceへの 写像を作ると、genericなfiberがabelian varietyになるものが作れます。)

Hitchinは次に(別のmotivationから)上の関数をsymbolに持つような微分作用素 で互いに可換になるものをを作りました。(彼は2階の微分作用素だけ考えてい ます。) ただし、その微分作用素は、line bundle L^{-dual Coxeter #} 上の ものです。

Hitchinは、これはできることは分かるけど意味があるかどうかは分からないと いっています。

Q. 可換な微分作用素ができると何がうれしいのでしょうか?

Hitchinのmoduliは、私のやっているvarietyといろいろと類似点がありまして、 Hitchinの仕事の上に書いたこと以外は大体、対応することができます。 (例えば、HomologyのMorse理論による計算とか....etc.)
上のことが、私には意味が分からなくてすっきりしません。 逆に量子群の構成のところは、Riemann面の上のbundleのmoduliの時には、 何をいっているのか分かりません。 まあ、この辺の類似性については話したいと思いますが....

中島