2001年度前期講義「幾何学特論 I」
目次
開講のお知らせ
4月17日
5月1日
5月8日
5月15日
5月22日
5月29日
6月5日
6月12日
6月19日
7月3日
7月17日
レポートについて
4月17日(火)開講
授業内容
この講義ではhyperKaehler多様体を取り扱います. これは, 複素数に対する
Kaehler多様体の四元数版に当たります. Kaehler多様体と異なり, 非自明な例
を構成することは, それほど簡単ではありませんが, 商構成法と呼ばれる方法で
多くの例が作られることが知られています. この講義では, 商構成法で作られる
hyperKaehler多様体について考察します.
予備知識としては, Riemann幾何の基礎, Riemann計量の定義とLevi-Civita接
続の存在を仮定します. また, 講義の後半で, hyperKaehler多様体のホモロジー
を計算しますので, ホモロジーの定義と基本的な性質を知っていることを仮定
します. それ以外は仮定しない予定です.
4月17日にやったこと
- 概複素多様体の定義
- Nijenhuisテンソルの定義
- Newlander-Nirenbergの定理(証明は略)
- Kaehler多様体の定義
- Kaheler多様体のRicci曲率
5月1日にやったこと
- hypercomplex多様体の定義
- I2 = J2 = K2 = IJK = -1
- I, J, K はそれぞれ可積分
- 小畠の定理: hypercomplex多様体に
はtorsion freeで▽I = ▽J = ▽K = 0を満たすアファイン接続がただ一つ存
在する.
- hyperKaehler多様体の定義
- I2 = J2 = K2 = IJK = -1
- 計量 g は, I, J, K それぞれについてhermitian
- g のLevi-Civita接続を▽とするとき, ▽I = ▽J = ▽K = 0
- hyperKaehler多様体のRicci曲率は0である.
- hyperKaehelr多様体は正則シンプレクティック形式を持つ
- 上のhyperKaehler多様体の定義において, 第三番目の条件の代わりに
dωI = dωJ = dωK = 0としても同値である.
講義の補足ノート(ps file)
5月8日にやったこと
- Lie群とLie環
- Lie群の多様体への作用
- slice定理
講義の補足ノート(ps file)
- symplectic多様体へのLie群の作用に関する運動量写像 μ:M → g*
- symplectic quotient Mred = μ-1(ζ)/G
- Kaehler多様体の場合: 元々のMがKaehler多様体の場合には, MredもKaehler多様体となる.
5月15日にやったこと
- Kaehler quotientの例として複素射影空間
- hyperKaehler moment mapの定義
- M=H, G=Sp(1)のときの計算
- M=C2, G=U(1)のときの計算
- μC = μJ + iμKが複素構造 I に関して正則写像となる
講義の補足ノート(ps file)
5月22日にやったこと
ゲージ理論とモーメント写像
- Σを向き付けられた2次元コンパクト多様体とし, Eをその上のベクトル束とする.
このとき, E 上の接続の全体をAとし, ゲージ群をGとする. Aにはシンプレクティック構造が定義され, G はそれを保つようにAに作用する. このとき, 接続の曲率を与える写像は, モーメント写像となる.
- さらにΣにRiemann計量を導入し, Eにはファイバー計量を導入する.
接続としてはそれを保つもの, ゲージ群もそれを保つバンドル自己同型の全体とする.
このとき, Aに自然にL2内積と概複素構造が入り, 上のシンプレクティック構造は対応するKaehler形式となる.
- H = R4にhyperKaehler構造を入れておく. Eをファイバー計量を持ったベクトル束とし, 上と同様にAをそれを保つ接続の全体, Gをそれを保つバンドル自己同型の全体とする. このとき, ▽に対してR▽∧ωI, R▽∧ωJ, R▽∧ωKを対応させる写像はhyperKaehler moment mapとなる.
5月29日にやったこと
- hyper-Kaehler商 μ-1(0)/G が再びhyper-Kaehler多様体になることの証明
- holomorphic symplectic 商μc-1(0)/Gcとの関連
- スライス定理は割る群がコンパクトでないときには成立しないので, μc-1(0)/Gc が多様体になるかどうかは分からない. 商位相もハウスドルフになるとは限らない.
- 集合の間に写像 μ-1(0)/G → μc-1(0)/Gcが存在する.
- 例. M = H2, G = U(1), Gc = C*のときに両者を具体的に記述.
6月5日にやったこと
- 先週の例で, μ-1(ζ)/Gは, ζC = 0, ζR ≠0のとき射影直線の余接束 T*CP1となる.
- V をエルーミート計量を持つ複素ベクトル空間, GをU(V)のLie部分群, GCをその複素化とする. モーメント写像 μ:V → g* は, <μ(x),ξ> = 1/2 Re(iξx, x) で与えられる. このとき px(g) = 1/4 |gx|2というGC上の関数を考える.
- 定理
- px は G\GC/GxC上の関数に落ちる.
- g が pxの臨界点 ⇔ μ(gx) = 0
- pxは G\GC 上の凸関数
- pxの臨界点は最小値を取る点
- pxが最小値を取るならば, それはただ一つのコセットG\g/GxCで取る.
- pxが最小値を取るための必要十分条件は, GCxが閉軌道であること
- 系(Kempf-Ness) μ-1(0)/G = { 閉なGC軌道の全体 }
講義の補足ノート(ps file)
6月12日にやったこと
- 幾何学的不変式論の簡単な紹介
- 集合論的な商空間 V/GC の代わりに, 商空間の上の関数(多項式)が何かを考える. それは, V上のGC不変な関数(多項式)と考えるのが自然である.
そこで, A(V)をV上の多項式全体の成す環, A(V)GCをそのGC不変な部分環とする. 永田の定理によりA(V)GCは有限生成であることが知られている.
V//GC = Spec A(V)GCと定義する. アファイン代数多様体(一般には特異点を持つ)になる.
- 次のことが知られている. 包含写像 A(V)GC ⊂ A(V)は全射正則写像 V → V//GCを導く. 同値関係〜を x〜y ⇔ GCxの閉包とGCの閉包が交わる, として定義したときに V//GCは集合としてはV/〜に他ならない. また, V//GCは閉なGC軌道の全体にもなる.
- 証明の途中で用いられるのは次の定理: W1, W2をGC不変なZariski閉集合とするとき, W1∩ W2 = φである必要十分条件は, GC不変な多項式 f で W1上で 1, W2上で0となるものがあることである.
- μ-1(ζ)/Gの場合への拡張. ただし, ある群準同型χ:G → U(1) があって, ζ=idχ : Lie G → R となっている場合を考える.
- V x C に GCの作用を g(x,z) = (gx, χ(g)-1z)によって定義する.
- z≠0とし, p(x,z):GC → R を p(x,z) = 1/4 ||gx||2 + log |χ(g)-1z|で定義する.
- 定理
- p(x,z) は G\GC/G(x,z)C上の関数に落ちる.
- g が p(x,z)の臨界点 ⇔ μ(gx) = ζ
- pxは G\GC 上の凸関数
- pxの臨界点は最小値を取る点
- pxが最小値を取るならば, それはただ一つのコセットG\g/G(x,z)Cで取る.
- p(x,z)が最小値を取るための必要十分条件は, GC(x,z)が閉軌道であること
- 系.μ-1(ζ)/G = { 閉なGC(x,z)の全体 } (ただし z は固定する)
- Hilbert-Mumfordの判定法: x∈Vとし, YをGCxに含まれるGC不変な閉集合とする. このとき群準同型 λ:GC→C*と点y∈Yであって limt→0 λ(t)x = yとなるものが存在する.
講義の補足ノート(ps file)
6月19日にやったこと
授業の訂正
:
M = Hom(V,W), G=U(V), GC = GL(V)とし,
χ: U(V) → U(1)をχ(g)=det gで定義したとき
μ-1(idχ)/G = { f : fはsurjective } / GC
としたのは間違い. 正しくは, μ-1(idχ) = φ
- 例. V, W はHermite内積を持った複素ベクトル空間,
M = Hom(W,V) x Hom(V,W), G = U(V), GC = GL(V)
- 作用は, g(a,b) = (ga, bg-1)
- I(a,b) = (ia, ib), J(a,b) = (-b*,a*)
(ただし*はhermitian adjoint)
- hyper-Kaehlerモーメント写像は,
μI(a,b) = -i/2 (aa* - b*b),
μC(a,b) = ab で与えられる.
- χ: G → U(1)を χ(g) = det gで定める.
- 定理. (a,b)∈μC-1(ζC)とする. このとき
- GC(a,b)∩μI-1(idχ)≠φである必要十分条件は, aがsurjectiveであることである.
- GC(a,b)∩μI-1(-idχ)≠φである必要十分条件は, bがinjectiveであることである.
- ζC≠0のときは, 上の二つの条件は自動的に成立する.
- 定理. hyper-Kaehler商 μ-1(ζ)/Gの複素多様体としての構造は次の様になる. (ただし, ζIは, 0か±idχとする.)
- ζC≠0のとき. μ-1(ζ)/Gの複素多様体としての構造はζIにはよらず, 全て対角行列 diag[0,..,0, ζC,...,ζC]と共役な行列の全体, と同型になる. (0がdim V個, ζCがdim W - dim V個)
- ζC = 0, ζI = 0のとき.
μ-1(ζ)/G = { A ∈ End(W) | A2 = 0, rank A ≦ dim V }
- ζC = 0, ζI = ±idχのとき.
μ-1(ζ)/G = T*Grassmann
- 例. V, W はHermite内積を持った複素ベクトル空間,
M = Hom(V,V) x Hom(V,V) x Hom(W,V) x Hom(V,W), G = U(V), GC = GL(V)
- 作用は, g(B1,B2,a,b) = (gB1g-1,gB2g-1, ga, bg-1)
- I(B1,B2,a,b) = (iB1,iB2,ia, ib), J(B1,B2, a,b) = (-B2*,B1*, -b*,a*)
- hyper-Kaehlerモーメント写像は,
μI(B1,B2,a,b) = -i/2 ([B1,B1*] + [B2,B2*] + aa* - b*b),
μC(B1,B2,a,b) = [B1,B2]+ab で与えられる.
- 定理(Atiyah-Hitchin-Drinfeld-Manin). hyper-Kaehler商 μ-1(0)/G
の自由な軌道からなる開集合(μ-1(0)/G)〇は,
R4上の反自己双対接続の(枠付き)モジュライ空間とhyper-Kaehler多様体として同型である.
- 定理(中島) ζC = 0, ζI = idχのとき, hyper-Kaehler商 μ-1(0)/Gは, C2上のtorsion-free coherent sheavesの(枠付き)モジュライ空間と複素多様体として同型である.
7月3日にやったこと
- C2上のn個の点のなすHilbert概型とは, 多項式環
C[z1, z2]のイデアルIで, C[z1,
z2]/Iがベクトル空間としてn次元になるものの全体のことを言う.
例えば, C2からn個の相異なる点を取り, I としてその点で消える
関数の全体を取れば, Hilbert概型の点を定める.
- また, C2のある点と, その点での接空間の一次元線形部分空
間が与えられたとき, I としてその点で消え, さらに微分がその部分空間の方
向に消えるような関数の全体と定める. これはC2上の2個の
Hilbert概型の点である.
- 先週の例において, dim W = 1, dim V = n とすると, ζC =
0, ζI = idχのとき, hyper-Kaehler商 μ-1(0)/Gは,
C2上のn個の点のなすHilbert概型と複素多様体として同型である.
- 写像は, 次のように与えられる. イデアル I に対して C[z1,z2]/Iをベクトル空間と考え, 与えられたベクトル空間Vとの間の同型を固定する. W = Cとおく.
C[z1,z2]/I においてz1, z2を掛ける写像を同型でVに写したものをB1, B2と定める. Wの1に対し, 多項式の1を対応させる写像を同型でVに写したものをiとする. j=0 とおく.
7月17日にやったこと
コンパクトシンプレクティック多様体MにS1が作用し, モーメント写像 μ: M → R が与えれらたとする. μをモース関数としてモース理論でMのBetti数を求めることを考える.
- S1作用の固定点がμの臨界点である. S1作用の固定点が孤立していると仮定する.
- このとき, μのHessianを計算すると, μがモース関数であることが分かる. さらに, モース指数, すなわちHessianの負の固有値の数を勘定すると, 偶数であることが分かる.
- モース理論の標準的な議論においてモース指数がかならず偶数であることに注意すると,
Σk dim Hk(M,R) tk
= Σx t index-x
が分かる. ただし右辺はS1作用の固定点xに関する和で, index-xは, xにおけるμのモース指数である.
- M = G(r,n) = Cnのr次元部分空間の全体のグラスマン多様体とし,
Tnの標準的なCnへの作用の誘導するMへの作用を考える.
- 固定点は, Cnの標準的な基底(全部でn個ある)からr個選び, それを基底として持つベクトル空間である. よって, 全部でnCrの固定点がある.
- λ:S1→Tnを適当に取ると, S1作用の固定点はTnの固定点と一致し, 特に有限個の点となる. 上の議論を適用すると,
指数が容易に計算でき, グラスマン多様体のBetti数が計算できる.
- M = (C2)[n]を
C2上のn個の点のなすHilbert概型とする. C2への自然なT2の作用が誘導するHilbert概型への作用を考える.
- C2の座標をx,yとしたとき, 固定点は x, y の単項式で生成されるイデアルである. 単項式 xiyjが(i,j)座標になるようにx,y平面(の第一象限に単項式を並べ, イデアルに入らない単項式を箱で囲むことにする. すると
Young図式が得られる. 箱の数は n 個である.
- 上のグラスマンのときと同様にλ:S1→Tnを適当に取ると, S1作用の固定点はT2の固定点と一致し, 特に有限個の点となる.
- Mはコンパクトでないので注意が必要だが, 基本的に上の議論を適用することが出来て,
Σk dim Hk(M,R) tk
= ΣY t 2(n-l(Y))
が分かる. ただし右辺は, 箱の数がn個のYoung図式Yを全て走り, l(Y)はYの列の数である.
レポートについて
単位が欲しいものは, 授業中に出した演習問題から一題以上を解いて数学事務室に提出すること. 締め切りは9/21(金)まで.
nakajima@kusm.kyoto-u.ac.jp