2002年度後期講義「幾何学特論 II」
目次
開講のお知らせ
10月1日
10月8日
10月15日
10月22日
10月29日
11月5日
11月19日
11月26日
12月3日
12月10日
1月14日
1月21日
11月12日は, 休講
10月1日(火)開講
授業内容
この講義では量子展開環とその標準基底(結晶基底ともいう)を取り扱います.
量子展開環は, 複素単純Lie環の普遍展開環の量子変形であり, Drinfeldと神保により独立に導入されました. もともとは可解格子模型の研究に由来があるのですが,
この講義ではLie環とその表現論の自然な拡張であるという立場から取り扱います.
標準基底は, Lusztigによって導入された量子展開環の上三角部分環の基底で,
さまざまなよい性質を持つものです. 同時期に柏原によって定義された結晶基底と一致することが, のちに証明されました.
この基底は複素単純Lie環の表現論自体にも多くの応用を産み出しました.
講義の前半では, 標準基底の定義を初等的に与え, その性質を調べます.
後半では, 有限次元代数(箙の道代数)の表現論との関連である,
Ringel-Lusztigの理論を紹介する予定です.
予備知識は, 少なくとも初めのうちは何も仮定しませんが, (Humpherysの教科書にあるような)複素単純Lie環の基本的な事柄は, 証明なしに使うことになる予定です.
量子展開環は新しい対象ですが, すでに多くの教科書で取り扱われています.
- Hong-Kang, Introduction to quantum groups and crystal bases,
GSM 42, AMS
- Jantzen, Lectures on quantum groups, GSM 6, AMS
- Joseph, Quanum groups and their primitive ideals, Springer
- Kassel, Quantum groups, GTM 155, Springer
- Lusztig, Introduction to quantum groups, Progress in Math. 110, Birkhauser
講義の内容に一番近いのは, Lusztigの本ですが, 標準基底の定義は彼のものよりも初等的に与える予定です.
10月1日にやったこと
日本語の参考文献の追加
- 有木, A(1)r-1型量子群の表現論と組み合わせ論, 上智大学講究録
- 神保, 量子群とヤン・バクスター方程式, シュプリンガー現代数学シリーズ
- 谷崎, リー代数と量子群, 共立出版, 現代数学の潮流
§0 序
上の講義内容の説明とだいたい同じ
§1 Uq(sl2)の表現論
- (n+1)次元表現の構成
- Verma表現の構成
- (n+1)次元表現の既約性, 既約表現の分類
10月8日にやったこと
- ホップ代数の説明
- カシミール元
- Uq(sl2)の有限次元表現の完全可約性
§2 Uq(g)の定義と表現
- 有限次元単純リー環の生成元と関係式による表示
- ルート
10月15日にやったこと
- ワイル群
- Uq(g)の定義
- Uq-(g)は fiたちで生成される部分代数
- ウェイト加群
- 最高ウェイト加群
- Verma加群 M(λ)
- M(λ)はただ一つの既約な商 L(λ)を持つ
- λがdominant integral ウェイトのとき, L(λ)は有限次元になる.
10月22日にやったこと
§3 組み紐群のUq(g)への作用
g = sl2のとき
- V : 有限次元 Uq(sl2)ウェイト加群, v∈ Vmのとき
T(v) = expq-1(q-1et-1)
expq-1(-f)
expq-1(qet)qm(m+1)/2v
で, 作用素 T を定義する.
- V = L(n) のとき, v0を最高ウェイトベクトルとし, viを f(i)v0で定義すると
T(vi) = (-1)n-iq(n-i)(i+1)vn-i
が成り立つ.
- T(tv) = t-1T(v), T(ev) = (-ft)T(v), T(fv) = (-t-1f)T(v) が成り立つ.
g : 一般のとき
- Uqi(sl2)→Uq(g)を通じて上のTを考え, Tiで表す.
- Ti(qhjv) = qsihj Ti(v), T(eiv) = (-fiti)T(v), T(fiv) = (-ti-1fi)T(v) は
sl2の場合から従う.
- Ti(fj v) = Σr+s=-aij (-qi)r fi(r) fj fi(s)Ti(v) が成り立つ.
- Ti(ej v) = Σr+s=-aij (-qi)-s ei(r) ej ei(s)Ti(v) が成り立つ.
- 上の式により, Ti を Uq(g) の自己同型とみなすことができる.
10月29日にやったこと
- Tiは組み紐群の関係式をみたす.
- 組み紐群の幾何学的な意味
- ワイル群とルート系に関する様々な事実の紹介
§4. Integral form
- qhi, ei(n), fi(n)で生成されるUq(g)の Q[q,q-1]部分代数をUQであらわす.
- V = L(λ) とし, VQ = UQ vλとおく.
- VQ* Q(q)(*はテンソル積) = V
- 各ウェイト μにたいして Vμ,Q = Vμ∩VQとおくと, VQ = Σ Vμ,Q (直和)
- Vμ,Qは有限階数自由 Q[q,q-1] 加群で, その階数はVμの Q(q)ベクトル空間としての次元に等しい.
- V のウェイト空間の次元は, 有限次元リー代数 g の対応する表現のウェイト空間の次元に等しい.
- V = Uq-(g)/ fi<λ,hi>+1
11月5日にやったこと
§5. PBW 基底
- ワイル群の最長元 w0の最短表示 si1si2...siνを取り固定する. (hであらわす)
- L(c,h) = fi1(c1)Ti1(fi2(c2)) ...Ti1Ti2...Tiν-1(fiν(cν))とおく.
- c = (c1,...,cν)を動かすとき, L(c,h) は Uq-の基底を定める. これを PBW 基底という.
- 定理 g は ADE 型であるとする.
- { L(c,h) } と { L(c',h')} の基底の変換行列の各成分は Z[q]に入る.
- LZ(∞) = L(c,h) 達で生成されるUq-の Z[q]-部分加群とすると, h の取り方に依存しない.
- B(∞) = { L(c,h) mod q LZ(∞) } = LZ(∞)/q LZ(∞) はh の取り方に依存しない. (結晶基底)
11月19日にやったこと
§6. bilinear form
- 自由代数 Uq-〜を考え, テンソル積 Uq-〜 * Uq-〜に積の構造を (x1*x2)(y1*y2) = q-(wt x2, wt y1) x1y1*x2y2で入れる.
- r : Uq-〜 → Uq-〜 * Uq-〜という代数の準同型を r(fi) = fi * 1 + 1 *
fiとなるように定める.
- Uq-〜にbilinear form ( , )で次をみたすものがただ一つ存在する.
- (fi, fj) = 1/1-qi2
- (x, yy') = (r(x), y * y')
- (xx', y) = (x * x', r(y))
- r は,Uq-→ Uq- * Uq-に落ちる.
- ( , ) はUq-に落ちる.
- r(x) = fi * ir(x) + ... = ri(x) * fi + ... によって ir(x)とri(x)を定義する.
- ei x - x ei = (ri(x) ti-ti-1 ir(x))(qi-qi-1)-1
- Uq- = Σn finUq-[i] = Σn *Uq-[i] fin (Σは直和), Uq-[i] = { x∈ Uq-│Ti-1(x)∈ Uq-}, *Uq-[i] = { x∈ Uq-│Ti(x)∈ Uq-}
- Uq-[i] = Ker ir(x), *Uq-[i] = Ker ri(x)
- Uq- = Uq-[i] + fiUq- (直交分解)
11月26日にやったこと
- 定理. x,y∈Uq-[i]のとき, (x,y) = (Ti-1(x), Ti-1(y)) が成り立つ.
- 系. (L(c,h), L(c',h)) = Πs(fis(cs),fis(c's)) 特に, c≠c'ならば (L(c,h), L(c',h)) = 0
§7. 標準基底
- bar involution ― の定義: fi― = fi, q― = q-1
- 定理. bar involution ― をPBW基底 L(c,h)について行列表示すると, 辞書式順序に関して上三角で, 対角成分は 1 である.
- qhi, ei(n), fi(n)で生成されるUq(g)の Z[q,q-1]部分代数をUZであらわす.
- fi(n)で生成されるUq-の Z[q,q-1]部分代数をUZ-であらわす.
- 定理. PBW基底 L(c,h) はUZ-の基底である. (ADE型のときには証明を与えた. それ以外のときの証明はレポート問題)
- 定理. 次の性質をもつ基底 b(c,h) がただ一つ存在する.
- b(c,h) はbar involution ― で不変
- L(c,h) = b(c,h) + Σ c<d bc,d L(d,h)
b(c,h)を標準基底という.
12月3日にやったこと
- 先週の「定理. bar involution ― をPBW基底 L(c,h)について行列表示すると, 辞書式順序に関して上三角で, 対角成分は 1 である.」の証明
- (b(c,h), b(c',h) = δcc' + qZ[[q]]∩Q(q)
- x が, (x,x) = 1 + qZ[[q]]∩Q(q), x― = xをみたすと, x = ± b(c,h)である.
- したがって { ± b(c,h) | c ∈ Z≧0υ } は, h にはよらない. この集合は * で不変. ただし * は Uq-のanti-involutionでfiをfiにうつすもの.
- LZ(∞) = L(c,h) 達で生成されるUq-の Z[q]-部分加群とすると, h の取り方に依存しない.
12月10日にやったこと
- εi(b)の定義
- 柏原作用素 e〜i, f〜iの定義
§8. quiver (箙)
- 有限グラフで辺に向きを入れたものを quiver と呼ぶ.
- quiverの表現
- reflection functor Φi±の定義
1月14日にやったこと
- Gabirel の定理 : indecomposable なDynkin quiver の表現と正ルートが一対一に対応する.
§9. Hall代数
nakajima@kusm.kyoto-u.ac.jp