2007年度前期講義「基礎数学からの展開A」
目次
開講のお知らせ
4月9日
4月16日
4月23日
4月30日は振り替え休日
5月7日
5月14日
5月21日
授業内容
近年, 理論物理と幾何学が接近している. この講義では, 物理学に動機付けさ
れて発展した幾何学的な対象について, 予備知識をあまり仮定せずに, 紹介す
る. たとえば結び目理論や, 共形場理論などを紹介する予定である.
成績評価は出席とレポートによる.
参考書
毎週出されるレポート問題のうち, 三回以上提出すること.
前半部(担当: 中島 啓)のレポートを数学事務室(理学部3号館1F)で返却するの
で, 受け取ること.
4月9日にやったこと
数学と理論物理学の関わりの歴史を振り返る.
レポート問題:
- 数学と物理 (もしくは他の理学)との関わりについて調べなさい.
- 今日, 授業ででてきた専門用語について調べなさい.
4月16日にやったこと
結び目の不変量
ジョーンズ多項式の定義, スケイン関係式, カウフマン括弧
レポート問題:
- (易) 授業で出した, 絡み目のジョーンズ多項式の計算の演習問題を解きなさい.
- (難) ジョーンズ多項式がきちんと定義できていることを証明しなさい.
参考文献
4月23日にやったこと
モジュライ空間超入門とテータ関数
三角形のモジュライ空間から始めて, 平行四辺形のモジュライ空間, 複素平面の格子のモジュライ空間を説明し, テータ関数を(やや天下り的に)導入し, ポアソンの和公式を用いて変換公式を紹介した.
レポート問題:
$2\times 2$ 複素行列の全体を, $A$ と $PAP^{-1}$ ($P$は正則行列)は同じと思ってできるジョルダン標準形の全体のモジュライ空間を考える. これは, タイプI
$\left[\begin{array}{cc}\alpha &0\\0&\beta\end{array}\right]$ (ただし, $\alpha$と$\beta$を入れ替えただけのものは同じとみなす) とタイプII
$\left[\begin{array}{cc}\alpha &1\\0&\alpha\end{array}\right]$の行列の全体を
貼り合わせたものである. この二つのタイプの空間はどのように貼り合っているだろうか? $\left[\begin{array}{cc}\alpha &1\\0&\alpha\end{array}\right]$と
$\left[\begin{array}{cc}\alpha &0\\0&\alpha\end{array}\right]$はどれくらい`近い'だろうか?
数学用語を使うと, 次のようになる:
$2\times 2$ 複素行列の全体を, $A$ と $PAP^{-1}$ ($P$は正則行列)は同じと思ってできる同値関係で割ってできる商空間を考え, 商位相を入れる.
$\left[\begin{array}{cc}\alpha &1\\0&\alpha\end{array}\right]$と
$\left[\begin{array}{cc}\alpha &0\\0&\alpha\end{array}\right]$は交わらない開集合で分離できるだろうか?
5月7日にやったこと
オイラーの五角数定理
$$\prod_{n=1}^\infty (1 - q^n) = \sum_{k=-\infty}^\infty (-1)^k q^{k(3k-1)/2}$$
$q$-二項定理を証明し, ヤコビの三重積公式を経て証明を与えた.
レポート問題:
- 整数を偶数個の相異なる正整数に分割する方法と奇数個に分割する方法を比べることによって五角数定理を証明せよ.
- Rogers-Ramanujan の恒等式
$$1 + \sum_{n=1}^\infty \frac{q^{k^2}}{(1-q)(1-q^2)\dots (1-q^k)} = \prod_{n=0}^\infty \frac1{(1-q^{5n+1})(1 - q^{5n+4})}$$
$$1 + \sum_{n=1}^\infty \frac{q^{k^2+k}}{(1-q)(1-q^2)\dots (1-q^k)} = \prod_{n=0}^\infty \frac1{(1-q^{5n+2})(1 - q^{5n+3})}$$
を, 次の恒等式を用いて示せ.
$$\sum_{k=0}^n q^{k^2} \begin{bmatrix}n+k \\ n-k \end{bmatrix} = \sum_{k=-\lfloor (n+2)/5 \rfloor}^{\lfloor n/5 \rfloor} q^{15k^2+k} \begin{bmatrix}2n+2 \\ n-5k \end{bmatrix}\frac{\begin{bmatrix}10k+2\end{bmatrix}}{\begin{bmatrix}2n+2\end{bmatrix}}$$
参考文献
- 数学ってなんだろう, 日本評論社, 第7講, 長谷川浩司
5月14日にやったこと
RR の恒等式の左辺を変形し次を示した。
$$1 + \sum_{n=1}^\infty \frac{q^{k^2}}{(1-q)(1-q^2)\dots (1-q^k)} = \sum q^{a_1 + 2a_2 + 3a_3 + \cdots}$$
$$1 + \sum_{n=1}^\infty \frac{q^{k^2+k}}{(1-q)(1-q^2)\dots (1-q^k)} = \sum q^{a_1 + 2a_2 + 3a_3 + \cdots}$$
ただし, $a_1$, $a_2$, は $0$か$1$かで 隣り合った $a_i$ と $a_{i+1}$は
同時に $1$ とはならず, 十分大きな $N$ に対して $a_N = a_{N+1} = \dots = 0$
となっているものとする。上の式のときは、条件はそれだけで、下の式のときは
$a_1 = 0$ をさらに課すことにする。
レポート問題 1: 上の二つの式の比, 上の式/下の式 を考える. $q\to 0$ のとき
これは $1$ となる。楕円関数の変数変換の公式を用いて, $q\to 1$ のときの極限を
計算せよ.
さらにマヤ図形と,
フォック空間を導入し、ヤコビの三重積公式が、フォック空間の次元を
二通りに数えることで出てくることを紹介した。
レポート問題 2:上の議論の途中ででてきた次の事実を示せ。
$$\sum_Y q^{|Y|} = \frac1{(1-q)(1-q^2)\dots} = \frac1{\prod_{n=1}^\infty (1-q^n)}$$
ただし、左辺はすべてのヤング図形についての和を取り、$|Y|$は
ヤング図形の箱の数とする。
5月21日にやったこと
位相的場の理論の紹介
定理. (1+1)次元の位相的場の理論は可換フロベニウス代数と一対一に対応する。
この主張のうち位相的場の理論から可換フロベニウス代数をどのように作るかを紹介した。
レポート問題
- $V = {\mathbf C}[x]/(x^n = 0)$ として, 余単位元を
$$x^i \mapsto \begin{cases} 1 & i=0 \\ 0 & i\neq 0 \end{cases}$$
で定める。このとき穴が $g$ 個空いた曲面に対応する値を計算せよ。
- $V$ が二次元のときに可換フロベニウス代数を (同型を除いて)分類せよ。
参考文献
- Joachim Kock : Frobenius Algebras and 2D topological quantum field theories, London Mathematical Society Student Texts 59
問題訂正
余単位元の定義を
$$x^i \mapsto \begin{cases} 1 & i={n-1} \\ 0 & i\neq {n-1} \end{cases}$$
に訂正する。
訂正前のままだと、フロベニウス代数にはならない。すでにレポートを提出してしまった人は、訂正してもしなくてもどちらでもいいです。
このページの数式は, MathJaxを用いて書かれています.
nakajima@math.kyoto-u.ac.jp