cocycle 条件は $GL(r,\R)$ の代わりに Lie 群 $G$ に取り替えても意味を持ち、主束が定義される。(詳しくはあとで)
一般に、ベクトル束の構造群が $G$ であるとは、変換関数が $G$ に値を持つようにできるときをいう。たとえば、行列式が正の行列の全体を $GL_+(r,\R)$ とすると、 $GL_+(r,\R)$に構造群を持つようなベクトル束は、向きを持つベクトル束にほかならない。
局所自明化を計量が標準計量になるようにとるとき、接続型式 $A$ は反対称行列になる。
注. 反対称行列の全体は、$O(r)$ のLie環である。($\mathfrak{so}(r)$ と書く。)
演習問題2. 変換公式 $ A_\beta = g_{\alpha\beta}^{-1} dg_{\alpha\beta} + g_{\alpha\beta}^{-1} A_\alpha g_{\alpha\beta}$ において、$g_{\alpha\beta}$ が $O(r)$ に値を持てば、$g_{\alpha\beta}^{-1}dg_{\alpha\beta}$ は、$\mathfrak{so}(r)$ に値をもつ。さらに$A_\alpha$が$\mathfrak{so}(r)$に値を持てば、 $g_{\alpha\beta}^{-1} A_\alpha g_{\alpha\beta}$ も$\mathfrak{so}(r)$に値を持つ。
命題. 接続 $\nabla$ が、$E$上の計量 $(\ ,\ )$ を保つとき、上の線形同型写像は計量を保つ。
定義. ベクトル束 $\pi: E\to X$ とその上の接続 $\nabla$ が与えられたとする。このとき $X$上のベクトル場 $V$, $W$と、$E$の切断 $s$ に対して $$ F(V,W) s = \nabla_V\nabla_W s - \nabla_W \nabla_V s - \nabla_{[V,W]}s$$ により、新しい切断 $F(V,W)s$ を定義する。
命題.
命題.
$E\to X$ が構造群を$G$に持つベクトル束のとき、接続 $\nabla$ が、接続型 式 $A$ が $G$のLie環 $\mathfrak g$ に値を持つような接続であるとする。 (たとえば、$G=O(r)$ のときは、計量を保つ接続のこと)このとき、$dA$は $\mathfrak g$ に値を持つが、$\frac12[A\wedge A]$ も$\mathfrak g$に値を 持つ。よって、$F$ は$\mathfrak g$に値を持つ二次微分型式である。
演習問題. $\mathfrak g$ を $G$ 上の左不変ベクトル場の全体とみなして, Lie 括弧積を、ベクトル場の括弧積として定める。
1. 左不変ベクトル場 $V$, $W$ の括弧積が、ふたたび 左不変ベクトル場であることを示せ。
2. $G = GL(r,\R)$, $=O(r)$ のとき、行列の括弧積が、このLie括弧積に等しいことを証明せよ。
定義. $\nabla$が平坦接続であるとは、$F=0$となるときをいう。
定理. 平坦接続 $\nabla$ に関する、平行移動は $x$ と $y$ を結ぶ曲線のホモトピー類にしか依存しない。
証明. $c: [0,1]\times [0,1]\to X$ を $x = c(s,0)$ と $y = c(s,1)$とする曲線の族とする。このとき $c$ に沿った切断 $\varphi$ で、$s$ を止めたときに $t$ 方向に平行移動になっていて、 $$\nabla_{\frac{\partial}{\partial t}} \varphi = 0$$ さらに初期値 $\varphi(s,0)$ は、$s$によらずに $\varphi_0\in E_x$ となっている ものを考える。 このとき、$\nabla_{\frac{\partial}{\partial t}} \nabla_{\frac{\partial}{\partial s}} \varphi = \nabla_{\frac{\partial}{\partial s}} \nabla_{\frac{\partial}{\partial t}} \varphi = 0$ から、$\varphi(s,1)$ も $s$ によらずに一定であることが従う。
特に、$X$が単連結の場合には、平行移動によって $E \cong X\times\R^r$ となることが従う。
系. $X$を普遍被覆空間を$\widetilde X$とするとき、基本群の表現 $\pi_1(X)\to GL(r,\R)$ が取れて、 $E$は$\widetilde X\times_{\pi_1(X)} \R^r$と書ける。
授業では、$p$ の逆写像を考えていたので、右からの作用にするために $g^{-1}$ を 掛けていたので、上よりも複雑になってしまった。訂正する。
さらに、$E$が計量を持つときには、正規直交基底を考えることによって、 同様に、主$O(r)$-束を定めることができる。
とりあえず Lie 群になれるまでは、主 $G$束は、(計量のような)構造をもったベクトル束に対して、構造とコンパチブルな基底の全体からできるものと考えてよく、そのとき $G$は構造を保つ線型変換の全体のなす群である。
より一般に、$G$の表現 $\rho: G\to GL(N,\R)$ が与えられると、$P$に付随したベクトル束を $P\times_G \R^N$, $(p,v)\sim (pg, \rho(g)^{-1}v)$ によって定義することができる。(証明は、演習問題)
演習問題. 積分曲線が $-\infty < t < \infty$ で解を持つことを、一般の Lie 群の場合で証明せよ。 $\phi_\alpha: \pi^{-1}(U_\alpha)\to U_\alpha\times G$ から変換函数 $g_{\alpha\beta}: U_\alpha\cap U_\beta\to G$ が $$\phi_\alpha\circ\phi_\beta^{-1}(x,g) = (x, g_{\alpha\beta}(x)g)$$ によって定義される。
$v\in\mathfrak g$が $P$上に定義するベクトル場を $v^\#$ で表す。
定義. $P$上の接続とは、$P$上の$\mathfrak g$に値を持つ1-form $\omega$ であって
演習問題. $\varphi_{g*}(v_p^\#) = \left(Ad(g)^{-1}v\right)_{pg}^\#$を示せ。
これにより、上の二つの条件は compatible である。
次の完全系列 $$0 \to \mathfrak g\cong T_p(P_{\pi(p)}) \to T_p P \to T_{\pi(p)} X \to 0$$ を考える。ただし$\mathfrak g\cong T_p(P_{\pi(p)})$ は、$v$に対して、$v^\#_p$を 対応させる写像である。
このとき、接続の点 $p$ における値 $\omega_p$ について 2の条件は、$T_p P\to \mathfrak g$ という splitting に他ならない。
splitting を与えることは、水平部分空間 $Ker\omega_p\subset T_p P$ を与えることと同じであり、接続とは、水平部分空間を各点$p\in P$ に与え、それが $G$ の作用で移り合っているものである。
自明束 $P = X\times G$ に対して、$i: X = X\times\{ e\} \to P$ として、 $$A = i^*\omega$$ を考えると、$X$上の$\mathfrak g$-valued 1-form になる。
逆に、$A$が与えられたとき、 $$\omega(v\oplus L_{g*}\xi) = Ad(g)^{-1}A(v) + \xi$$ によって、$\omega$を定めることができる。
一般の主$G$束 $P$ に対しては、局所自明化 $\phi_\alpha: \pi^{-1}(U_\alpha)\to U_\alpha\times G$ を取って、上の構成により $U_\alpha$上の$\mathfrak g$-valued 1-form $A_\alpha$ を定めることができる。
このとき変換函数を $g_{\alpha\beta}$とすると $$A_\beta = g_{\alpha\beta}^{-1}d g_{\alpha\beta} + g_{\alpha\beta}^{-1}A_\alpha g_{\alpha\beta}$$ という、ベクトル束の接続の変換公式と同じ公式が成り立つ。
演習問題. Maurer-Cartan方程式 $$d\omega + \frac12 [\omega\wedge\omega] = 0$$ を、一般のLie群$G$について証明せよ。
主 $G$束 $P$ の局所自明化 $\phi_\alpha: P|_{U_\alpha}\to U_\alpha\times G$ を使い、 $$(\phi_\alpha^{-1})^*\omega = \operatorname{Ad}(g^{-1})A_\alpha + \omega_{MC}$$ とあらわす。$\omega_{MC}$ は、$G$上の MC型式(を $U_\alpha\times G$に第二射影で 引き戻したもの)である。
2つの局所自明化の intersection で、変換関数 $g_{\alpha\beta}: U_\alpha\cap U_\beta\to G$ を取ると、接続型式の変換公式 $$A_\beta = \operatorname{Ad}(g_{\alpha\beta}^{-1}) A_\alpha + \omega_{MC}$$ が成り立つ。これを $\operatorname{Ad}(g_{\alpha\beta}^{-1}) A_\alpha = g_{\alpha\beta}^{-1} A_\alpha g_{\alpha\beta}$, $\omega_{MC} = g_{\alpha\beta}^{-1} d g_{\alpha\beta}$ と表わすと、ベクトル束の接続の変換公式と同じである。
曲率型式を、局所自明化を取って $$F_\alpha = dA_\alpha + \frac12 [A_\alpha\wedge A_\alpha]$$ と定める。変換公式 $$F_\beta = \operatorname{Ad}(g_{\alpha\beta}^{-1}) F_\alpha$$ が成り立つ。
この式は $\{ F_\alpha\}$ が、$P$に付随したベクトル束 $\operatorname{Ad}P = P\times_{\operatorname{Ad}}\mathfrak g$ に値をもつ2-formであることを意味する。
これを接続の曲率型式といい、$F$であらわす。
演習問題. $F \equiv 0 $と水平部分空間 $\operatorname{Ker}\omega_p$ が、分布として可積分 であることが同値であることを示せ。
局所自明化を取らない定義として $$\Omega = d\omega + \frac12 [\omega\wedge\omega]$$ を考える。
もとの定義と比べるために、局所自明化を取って $\Omega$ を計算すると $$\Omega = \operatorname{Ad}(g^{-1})( dA + \frac12 [A\wedge A]) = \operatorname{Ad}(g^{-1})(F)$$ となる。この式から、$\Omega$ を与えることと $F$ を与えることは等価である ことが分かる。 ($i: X\times\{e\}\to X\times G$ で、$\Omega$を引き戻したものが $F$ であり、逆に $F$ から変換性を使って $\Omega$ が再構成できる。)
命題. 1. $d_A\circ d_A = [F_A\wedge\bullet]$
2. $d_A F_A = 0$.
命題1. $d f(F_A) = 0$
これは、基本的に、Bianchi恒等式と, $f$ の $G$ 不変性から従う。
演習問題. 証明の途中で使った式 $$\left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0}\operatorname{Ad}(\exp t\eta)\xi = [\eta,\xi]$$ を一般のLie群の場合に示せ。
命題2. $f(F_A)$ の定めるコホモロジー類 $[f(F_A)]\in H^{2m}(X,\R)$ は、接続 $\omega$ のとり方によらない。
$\omega_1$, $\omega_0$ を2つの接続とし、これをつなげて $\omega_t = \omega_0 + t B$ ($B = \omega_1 - \omega_0$)とおくと、 $$ \varphi = \int_0^1 f(B,F_t,\dots,F_t) dt$$ によって $f(F_1) - f(F_0) = d(m\varphi)$ と表すことができるので、結論が従う。
演習問題. 曲率形式 $\Omega$ を用いて、$f(F_A)$ を定義せよ。
例として、det からできる Pontrjagin類や、pfaffian からできるEuler類、複素行列 の det からできる Chern 類を述べた。
位相幾何を用いた定義との関連、特に naturality と Whitney の和公式について述べた。
このとき、$P/G$ に商位相を入れたものは、$C^\infty$ 級多様体の構造をもち、 射影 $\pi: P\to P/G$ により $P$ は $P/G$ 上の主$G$-束になることを示せ。
($P$, $\nabla$は、$(X,g)$ 上のK\"ahler多様体の構造である。)
$\C^n$ の $i$倍作用を、同型 $\C^n = \R^{2n}$ を通じて $\R^{2n}$ の線形変換 と考え、$I$ で表す。$I^2 = -1$ が満たされる。$U(n)$ は、$O(2n)$ のうちで $I$と可換なもの $gI = Ig$ の全体である。
このとき $$\R^{2n}\otimes\C = V\oplus\overline{V}\qquad V = \{ v\mid Iv = \sqrt{-1}v\},\quad \overline{V} = \{ v\mid Iv = -\sqrt{-1}v \}$$ と、$\R^{2n}$ の複素化は、$I$ の$\sqrt{-1}$, $-\sqrt{-1}$-固有空間に分解する。 $(x,y)\in \R^{2n}$ を $x+iy\in\C^{2n}$ を同一視 $\R^{2n}=\C^{n}$ による表示とすると、$z = x+iy\in V$, $\overline{z} = x - iy\in\overline{V}$ となる。
$(X,g)$ が K\"ahler 多様体であるとすると $TX$ には、各点ごとに線形変換 $I$ であって、$I^2 = -1$ を満たすものが、自然に定められる。さらに、 Levi-Civita 接続が $P$ から来ていたことにより、$\nabla (IV) = I\nabla V$ ($V\in\mathcal X(X)$)が成り立つ。
さらに、上と同様に固有空間を考えることによって $$TX\otimes\C = T^{1,0}X \oplus T^{0,1} X$$ と分解し、Levi-Civita接続はこの分解を保つ。
微分形式の方でも対応して $$ T^*X \otimes \C = \Lambda^{1,0} T^*X\oplus \Lambda^{0,1} T^*X$$ より一般に $$ \Lambda^k T^*X\otimes\C = \bigoplus_{p+q=k} \Lambda^{p,q} T^*X$$ と分解する。
外微分作用素 $d: \Gamma(\Lambda^k T^*X)\to \Gamma(\Lambda^{k+1} T^*X)$は $$d = \partial + \overline{\partial}, \quad \partial : \Gamma(\Lambda^{p,q}T^*X)\to\Gamma(\Lambda^{p+1,q}T^*X), \quad \overline{\partial}: \Gamma(\Lambda^{p,q}T^*X)\to\Gamma(\Lambda^{p,q+1}T^*X)$$ と分解する。$(p,q)$ が高々 $1$ しか変わらないことは、$X$が複素多様体であって、正則座標を持つことを使えば明らかであるが、上で注意した $\nabla I = 0$ を使っても確かめられる。
同様に形式的随伴作用素 $d^*$ についても $$d^* = \partial^* + \overline{\partial}^*$$ と分解する。
Prop.
$(X,g)$ は K\"ahler多様体とする。
一般の場合に戻る。
Prop.
$$(Ds_1, s_2) - (s_1,Ds_2) = d^*\omega$$
ただし、$\omega$は、$\omega(v) = -(v\cdot s_1,s_2)$ で与えられる $1$-form である。
系.
$s_1$ もしくは $s_2$がコンパクト台を持つとき
$$\int_X (Ds_1, s_2) vol_g = \int_X( s_1, Ds_2) vol_g$$
が成り立つ。
次にWeitzenb\"ockの公式を紹介する。
$\nabla: \Gamma(s)\to \Gamma(T^*X\otimes S)$ の形式的随伴作用素を $\nabla^*$ で表わす。
$$\nabla s = -\sum_i \langle \nabla_{e_i} s, e_i\rangle$$
で与えられる。$\{ e_i \}$ は局所的な正規直交枠である。証明はExercise
このとき
定理.
$F=\nabla$の曲率$\in\Gamma(\Lambda^2 T^*X \otimes \operatorname{End}(S))$ とする。このとき、$S$の切断 $s$ に対して
$$D^2 s = \nabla^* \nabla s + \sum_{i < j} e_i\cdot e_j\cdot F(e_i,e_j)s$$
が成立する。
Exercise${}^*$. $S = \Lambda^* T^*X\otimes \C$ のとき、$D^2 = dd^* + d^* d$ となって、 $p$-form は $p$-form に移されることに注意する。このとき $p=1$ とすると $$D^2 = \nabla^*\nabla + \operatorname{Ric}$$ が成り立つ。ただし、$\operatorname{Ric}$はRicci曲率である。
区別するために、左から掛ける $Sp(1)$ を $Sp(1)_L$ で表わし、右から掛けるものを $Sp(1)_R$ で表わす。すると、$Sp(1)_L\times Sp(1)_R$ は $\mathbb H$ に $x\mapsto q_L x q_R^{-1}$ によって作用する。したがって、$\mathbb H$ は、 $Sp(1)_L\times Sp(1)_R$の実四次元表現である。
定義.
4次元Riemann多様体$(X,g)$の上のspin構造とは、$Spin(4)$主束 $P_{Spin(4)}\to X$ であって、$Spin(4)\to O(4)$ に従って誘導される $O(4)$主束
$P_{O(4)} = P_{Spin(4)}\times_{Spin(4)} O(4)$ が、$(X,g)$ の正規直交枠の作る $O(4)$ 主束と同型になるもののことをいう。
定義.
向き付けられた 4次元Riemann多様体$(X^4,g)$ 上のコンパクト群$G$を構造群とする、主 $G$ 束 $P$ の上の接続 $A$ が、anti-self-dual (半自己双対接続)であるとは、曲率
$F_A\in \Gamma(\Lambda\otimes\operatorname{Ad}P)$ を $\Lambda = \Lambda^+\oplus \Lambda^-$ に従って分解したときに、$F_A \in \Gamma(\Lambda^-\otimes\operatorname{Ad}(P))$ に入るときをいう。
$X = \R^4$ もしくは、より一般的に4次元spin多様体とすると、計量付き複素ベクトル束 $E$ 上の接続 $A$ から、Dirac operator $D_A^\pm$ が作られる。このとき $D_A^\mp D_A^\pm = \nabla_A^*\nabla_A + \text{curvature term}$ とあらわすと、 curvature term は, Levi-Civita 接続から来る項(すなわちスカラー曲率、$\R^4$の場合は $0$)と、$A$ の曲率 $F_A$ の $\Lambda^\pm$ -部分 $F_A^\pm$ の和で与えられる。 特に、$F_A^+ = 0$ であれば、$D_A^- D_A^+$ の curvature term は $0$ であり、`消滅定理’が成立する。
$X$ が、K\"ahler 曲面であれば、$F_A^+ = 0$ から $F_A^{0,2} = 0$ (したがって、計量を保つことから $F_A^{2,0} = 0$ も)が従う。これは、$\overline\partial_A \circ \overline\partial_A = 0$ を意味し、これは、`可積分条件’である。今の場合は、 $\overline\partial_A s = 0$ を満たす局所的な切断で、各点ごとに一次独立になっているようなものが取れることを保証し、これは正則ベクトル束の構造を与える、ということを意味する。
Exercise${}^*$. 正則な切断による局所自明化を、三つのやり方に共通に取ることは、一般にはできないことを説明せよ。$\mathbb H$において、複素関数論の類似を展開しようとすると、そのようなものが出てくるが、類似が自明になってしまうことによる。
$X$ を複素多様体とする。複素ベクトル束 $E$ の切断に働く partial connection $\overline\partial$ $$\overline{\partial} : \Gamma(E)\to \Gamma(\Lambda^{0,1}\otimes E)$$ を通常の Leibnitz則において $df $のところを $\overline\partial f$と変えて定義する。これが可積分であるとは $\overline\partial \circ\overline\partial: \Gamma(E)\to \Gamma(\Lambda^{0,2}\otimes E)$ が $0$ であることをいう。
$E$ に Hermite 計量 $h$ を与える。
定理.(Chern)
$E$ 上の接続 $A$ であって、
$G$ が compact Lie group であるとして、$\mathfrak g$ に $\operatorname{Ad}(G)$-不変な内積を導入し、$\mathfrak g$ 上の不変多項式と思い、対応する特性類を考える。 たとえば $G=U(r)$ のときは、$(\xi,\eta) = -\operatorname{Tr}(\xi\eta)$ であり、対応するのは、第二チャーン類である。
$X$ はコンパクトと仮定する。
上の内積と、微分形式の内積をテンソル積し、曲率の$L^2$内積を考える。$G = U(r)$ のとき具体的には、
$$|| F_A||^2_{L^2} = \int_X (F_A,F_A) vol = -\int_X \operatorname{Tr}(F_A\wedge\ast F_A)$$
である。このとき $F_A = F_A^++ F_A^-$ が直交分解であることに注意して、上は
$$- \int_X \left( \operatorname{Tr}(F_A^+\wedge F_A^+) - \operatorname{Tr}(F_A^-\wedge F_A^-)\right)$$
である。これは、$||F_A^+||^2_{L^2} + || F_A^-||^2_{L^2}$ である。
一方
$$-\int_X \operatorname{Tr}(F_A\wedge F_A) = - \int_X
\left( \operatorname{Tr}(F_A^+\wedge F_A^+) + \operatorname{Tr}(F_A^-\wedge F_A^-)\right)$$である。これは、$||F_A^+||^2_{L^2} - ||F_A^-||^2_{L^2}$ である。
後者が位相不変量であり、接続によらないことを思い出すと、$F_A^+=0$ は、
汎関数 $A\mapsto ||F_A||^2_{L^2}$ の最長値を与えることが従う。このように、anti-self-dual connection は、変分法と関係がある。
$A$ が $x_0$方向の平行移動で不変であったとする。すると $A = A_0(x_1,x_2,x_3) dx_0 + \sum_{i=1}^3 A_i(x_1,x_2,x_3) dx_i$ と分かれ、 最初の成分の $A_0(x_1,x_2,x_3)$ を $\Phi(x_1,x_2,x_3)$ と書き直す。 あとの方は、$\R^3$上の接続なので $A^3$で表わす。
anti-self-dual 接続の方程式は、$\R^3$のHodge star作用素 $\ast^3$ を用いて $$\ast^3 \nabla^{A^3} \Phi = F_{A^3}$$ と書きなおすことができる。これを$\R^3$上定義された接続と adjoint bundleの切断に関する方程式と考え、Bogomolny方程式といい、その解をmagnetic monopole という。
以下 $A^3$ は単に $A$, $\ast^3$ は単に$\ast$で表わす。
例. $G = U(1)$ のときを考えると、$A$ は単なる1-formであり、$\Phi$ は純虚数値関数である。Bogomolny 方程式 $\ast d\Phi = F_A = dA$ より、$\Phi$は調和関数である。そこで、 $\Phi = \frac1r$ と取る。$r$ は原点からの距離である。これは、調和関数である。
$d(\ast d\Phi) = 0$ であるから、de Rhamの定理を使って $\ast d\Phi = dA$ と書くことができれば、magnetic monopole が得られる。しかし $H^2(\R^3\setminus\{0\}) = H^2(S^2)\neq 0$ であるから一般にはできない。しかし $\int_{S^2} \ast d\Phi$ が然るべき整数の定数倍に値を持てば、$A$ は、対応する $\R^3\setminus\{0\}$ 上の複素直線束の接続としては取ることができ、Bogomolny方程式を満たす。これを Dirac の monopole という。
次に、$\R^4$のうち$(x_1,x_2,x_3)$方向の平行移動で不変なものを考えると、 $\R = \{x_0\}$ 上の接続 $A_0(x_0)dx_0$ と三つの Higgs 場 $T_i(x_0)$ であると考えることができる。このとき anti-self-dual 接続の方程式を立てると $$\frac{\nabla}{dx_0} T_i + \frac12 \sum\varepsilon_{ijk} [T_j, T_k] = 0$$ となる。
次に $(x_2,x_3)$-方向の平行移動で不変なものを考えると、 $\C = \R^2 = \{(x_0,x_1)\}$上の接続と2つのHiggs場 $\Phi_2$, $\Phi_3$ に関する方程式と見ることができる。
$F_{02} = -F_{31}$, $F_{03} = - F_{12}$ を書くと $$\begin{split} & \frac{\partial\Phi_2}{\partial x_0} + [A_0,\Phi_2] = \frac{\partial\Phi_3}{\partial x_1} + [A_1,\Phi_2] \\ & \frac{\partial\Phi_3}{\partial x_0} + [A_0,\Phi_3] = - \frac{\partial\Phi_2}{\partial x_1} - [A_1,\Phi_2]\end{split}$$ となる。このとき $z=x_0 + ix_1$, $\Phi = \frac12 (\Phi_2 + i\Phi_3)$ とおくと、これは Cauchy-Riemann 方程式 $$\frac{\nabla^A}{\partial\overline{z}}\Phi = 0$$ に他ならない。
残った $F_{01} = - F_{23}$ を書き下すためには、$\Phi dz = \frac12(\Phi_2+i\Phi_3)(dx_0+idx_1)$ を導入し、$(\Phi dz)^* = \frac12(-\Phi_2+i\Phi_3)(dx_0-id x_1)$ と定めると便利である。 $$F_A + [\Phi dx, (\Phi dz)^*] = 0$$ となる。これをHitchin's self-duality equationとよぶ。
この式の特徴として、一般のリーマン面(=$1$次元複素多様体)で意味をもつことが挙げられる。$A$ は、主 $G$ 束の上の接続と思い、$\Phi dz$ は $\operatorname{Ad}P\otimes\C\otimes \Lambda^{1,0}$ の切断と思えばよい。
定義. $P^\C$ 上の partial connection $\overline{\partial}_A $と$\Phi$ の組で $\overline{\partial}_A\Phi = 0$ を満たすもののことを Higgs束という。
この概念は、$P^\C$ があれば定義することができるものであり、$P^\C = P\times_G G^\C$ と $P$ から来ていることは必要ないことに注意する。
したがって、self-duality equation は、Higgs束と、$P^\C$の`reduction' $P$ の組に関する方程式$F_A + [\Phi\wedge\Phi^*] = 0$ である。
次に$\Phi\in\Gamma(\Lambda^{1,0}\otimes (\operatorname{Ad}P\otimes\C))$, $\Phi^*\in\Gamma(\Lambda^{0,1}\otimes (\operatorname{Ad}P\otimes\C))$に 注意し、 $$d_{(A,\Phi)} = d_A + \Phi + \Phi^*$$ を考える。これは、$P^\C$ の connection である。このとき、 self-duality equation から $$ F_{(A,\Phi)} = d_{(A,\Phi)}\circ d_{(A,\Phi)} = 0$$ が従う。すなわち$d_{(A,\Phi)}$ は、flat connection である。
上と同様に、この概念も、$P^\C$ があれば定義することができるものであり、$P^\C = P\times_G G^\C$ と $P$ から来ていることは必要ないことに注意する。
connection $d_{(A,\Phi)}$ とreduction $P$ が与えられると、 $$d_{(A,\Phi)} = d_A + \Psi$$ $d_A$ は、$P$のconnection, $\Psi\in\Gamma(\Lambda^1\otimes i\operatorname{Ad}(P))$ (self-duality equation から来る場合は、$\Psi=\Phi+\Phi^*$)と一意的に分解し、 $F_{(A,\Phi)} = 0$ は $$\begin{split} & F_A + \frac12 [\Psi\wedge\Psi] = 0 \\ & d_A\Psi=0 \end{split}$$ と同値である。
Exercise. self-duality equation の残りの式は、$d_A^*\Psi = 0$ と同値であることを示せ。
したがって、
Hitchin, Donaldson, Corlette, Simpson, ... に始まり、望月拓郎さんの最近の仕事にまでつながっていく、深い結果は、$X$ がコンパクトな場合に
例. $X=\R^2$, $\omega = dx\wedge dy$, $G = S^1$ のときに $\langle \mu, i\rangle = -\frac12(x^2+y^2)$
Exercise. $X = \C P^n$, $\omega$ は、Fubini-Study計量に付随する K\"ahler formのとき $$\langle \mu(x), \xi\rangle = \operatorname{const}\frac{x^*\xi x}{|x|^2}$$ となることを示せ。
一般の状況、しかし有限次元で考える。
$\mu: X\to \mathfrak g^*$ を moment map とし、$G$ は、コンパクトなLie群であるとする。
仮定. $G$ の $\mu^{-1}(0)$ への作用は free であるとする。
補題. $x\in\mu^{-1}(0)$ に対し、$d\mu_x: T_x X\to \mathfrak g^*$ は全射
系. $M = \mu^{-1}(0)/G$ は、$C^\infty$級多様体の構造をもつ。
定理.[Marsden-Weinstein] $i: \mu^{-1}(0)\to X$, $\pi:\mu^{-1}(0)\to M$ を自然な写像とする。 このとき $M$ は、$i^*\omega = \pi^*\omega_M$ を満たす、symplectic form $\omega_M$ を持つ。
演習問題. $X = \C^{n+1}$, $G=U(1)$, $\mu = \operatorname{const} (|z|^2 - 1)$ とするとき 上の symplectic form が、Fubini-Study 計量に付随する、K\"ahler form に定数倍を 除いて一致することを証明せよ。
次に、$X=\C P^n$ とし、$G\subset U(n+1)$をコンパクトなLie部分群, $G^\C \subset GL(n+1,\C)$ をその複素化として、$X/G^\C$ という商空間に、`複素多様体' の構造を入れられるか、という問題を考える。
$X=\C P^1$, $G^\C = \C^*$ のとき、単純な商空間は、三点からなるが、商位相では分離できず、Hausdorffではない。
定義. $x\in X$ が semistable であるとは、$x$ のリフト $\hat x\in\C^{n+1}\setminus 0$ を取ったとき、$G^\C\cdot \hat x$ の閉包が、$0$ を含まないときをいう。
このような点は、商空間を作るときには捨てる必要がある。
$X^{ss}$ を semistable な点の全体とする。これを $G^\C$ で割るだけでは、 まだ少し問題が残り、正しくは、$X^{ss}$の中の2つの点$x$, $y$ が軌道の閉包 $\overline{G^\C x}$, $\overline{G^\C y}$ が $X^{ss}$ の中で交わるとき、 $x\sim y$ として、同値関係 $\sim$ を定義し、$X/\!\!/G^\C = X^{ss}/\sim$と定義する。
上の例で、$\C^*$ は、$GL(2,\C)$ の中に $\lambda\mapsto \begin{pmatrix}\lambda & 0 \\ 0 & 1\end{pmatrix}$ として入れる。(入れ方に依存して semistability は変わるので注意)すると、$[z_0:z_1]$ は、$[1:0]$ は unstable, $[0:1]$ と $[1:1]$ は semistable で、両者の orbit の closure は交わっていることから、$X/\!\!/\C^*$ では 同一視され、一点になる。
一般に、幾何学的不変式論の一般論として、$X/\!\!/G^\C$ は, projective variety になることが知られている。
定理.[Atiyah-Bott, Kempf-Ness, Kirwan]
一般には、critical pointがない可能性があるが、その場合は、unstable であるか、 それとも$\sim$ による別の代表元に移ると、critical pointが取れるのであり、 そのようにして、上の定理は証明される。
上の結果を、$\mathcal A$ への $\mathcal G$ の作用の場合について、 形式的に適用してみることを考える。
$\mathcal A$ は、$P^\C$ 上の partial connection の全体 $\overline{\partial}_A$ と同一視することができ、そうすると、 $P^\C$ のゲージ変換の全体 $\mathcal G^\C$ が$\mathcal A$ に作用し、 $\mathcal G^\C$ は, $\mathcal G$ の複素化とみなすことができる。
すると、 $$\mu^{-1}(0)/\mathcal G = \mathcal A/\!\!/ \mathcal G^\C$$ となることが期待される。
左辺は、$\mu^{-1}(0)$ が、flat connection の全体であることから、 flat connection のゲージ同値類の全体であり、flat connection のモジュライ空間 と通常呼ばれる空間であり、有限次元の(一般には特異点をもつ)多様体である。
一方、右辺は、semistable bundle のモジュライ空間とよばれていて、 代数幾何学の幾何学的不変式論を用いて、構成されているものであり、 有限次元の射影多様体になる。
Atiyah-Bottたちの一般的な定理の有限次元の証明は、そのままでは適用できないが、 結果自体は正しく Narashimhan-Seshadriが、Atiyah-Bottよりも前に証明していた。 より直接的な証明は、Donaldsonによって与えられている。
Higgs 束のときも事情は、ほぼ同様である。 moment map が $\mu = F_A + [\Phi\wedge\Phi^*]$ となることは、exerciseとする。