アブストラクト:
近年高赤方偏移で、Lyα輝線におけるEquivalent Width(EW)の値が近傍の銀河の性質では説明できないほど大きな値を示しているLyman Alpha Emitters(LAEs)が見つかっている。これらのLAEsがこれほど大きなEWを示す要因の候補として主に、高温の星またはAGNによる光電離、ガスの重力収縮に伴う冷却放射よる衝突励起 、スターバーストで引き起こされる銀河風による衝突励起・電離があげられるが、未だどの要因によるものかは明確にはわかっておらず、これを解明することは銀河の進化や宇宙史を理解する上で非常に重要なことである。この問題を解明するために、本研究では特にz=3.1の高密度領域であるSSA22領域におけるLAEsに着目して研究を行っている。この領域のLAEsは、250Å以上のEWを示す銀河の割合が同じ赤方偏移の一般領域のよりも大きな値を示していることから、Lyα輝線のEWが一般領域よりも大きいことが言える。SSA22領域のLAEsがなぜこのように大きなEWを示すのかを解明するために、我々はKeck/DEIMOSを用いて、大きなEWを示す29のLAEsの静止系紫外線波長域を狙った分光観測を行った。その結果、金属量がゼロである天体が含まれている可能性を示すHeII輝線やAGNであるならば観測されるはずであろうNV輝線とCIV輝線が検出されなかった。またこれらのLyα輝線の輝線幅は非常に狭いことが確認できた。この結果から、SSA22領域のLAEsのLyα輝線におけるEWを大きくしている要因は、AGNによる光電離である可能性が低いことが明らかになった。また、我々はこれらLAEsの特徴にさらに制限をつけるべく、Keck/DEIMOSで観測されたLAEsの中の1天体に関して、Subaru/MORICSによる近赤外線分光観測を行った。そして、この天体の[OIII]5007Å輝線を検出することに成功した。この観測結果から、[OIII]5007Å輝線から測られた銀河のsystemic velocityに対してLyα輝線が僅かにredshiftしていることが確認できた。さらに可視赤外のアーカイブデータを用いたSED fittingからこの天体には若い星成分と古い星成分が含まれることがわかった。