Swift衛星による
マグネターSGR 1806-20からの巨大なガンマ線フレア

Nature誌掲載

JAXA宇宙科学研究本部、埼玉大学、東京大学が参加しているSwift衛星が、われわれの銀河にあり、マグネターと呼ばれる中性子星の一種から、過去最大規模の巨大ガンマ線フレアを検出しました。その結果が今回Nature誌(2005年4月28日号)に掲載されました。 フレア中に観測されたガンマ線の分光解析には、本グループの佐藤(JAXA宇宙科学研究本部、東京大学博士課程)、鈴木(埼玉大学博士課程)が参加しており、本論文にも共著者として加わっております。

Nature誌の掲載内容の概略

「軟ガンマ線リピーター(SGRs)」と呼ばれる天体は、X線パルサーのうち特異な放射を示す一族(Anomalous X-ray Pulsers)とともに、自転する中性子星の中でも、極めて強い磁場を持つもの「マグネター」が輝いているものであるとされています。こうした天体からの放射は、地磁気の1000兆倍という、その強力な磁場に関係していると考えられています。軟ガンマ線リピーターは、活動期に入ると、ガンマ線の爆発的放射をしばしば引き起こすことが知られていますが、ごくまれに、通常の1000倍という、極めて大きな爆発を起こします。2004年12月27日に「SGR 1806-20」という軟ガンマ線リピーターが、これまでに人類が観測した2つの巨大爆発のおよそ100倍にも達する、100年に一度あるかないかという超巨大爆発を起こしました。

Swift衛星は、打ち上げ後の試験期間中にこの現象を検出することに成功しました。SGR 1806-20の方向が衛星の指向していた方向とは異なったため、詳細なコンピュータシミュレーションを駆使し、爆発の全エネルギーなどを計算しました。その結果、爆発が球対称だったとすると、その全エネルギーは2×1046 ergと見積もられ、これまでに人類が観測した2つの巨大爆発のおよそ100倍にも達することがわかりました。そのエネルギー源は、おそらく中性子星の強力な磁場の源となっているものが、劇的な状態変化を起こしたことによるものと考えられます。 もしこの現象が、我々の銀河の中でなく、40メガパーセクほど離れた、別の銀河で起きたとすると、いわゆる「ガンマ線バースト」と呼ばれる謎の天体現象のうち、1秒というような非常に短い時間の間におこる「ショートバースト」として観測される可能性があります。したがって、今回の観測結果によって、中性子星が関連した軟ガンマ線リピーターの巨大爆発が、少なくともある種の「ガンマ線バースト」の起源である可能性が出てきたと言えます。

(Gamma Ray Observations of a Giant Flare from the Magnetar SGR1806-20
D.M. Palmer, S. Barthelmy, N. Gehrels, R.M. Kippen, T. Cayton, C. Kouveliotou, D. Eichler, R.A.M.J. Wijers, P.M. Woods, J. Granot, Y.E. Lyubarsky, E. Ramirez-Ruiz, L. Barbier, M. Chester, D. Hullinger, H. Krimm, C.B. Markwardt, J.A. Nousek, A. Parsons, S. Patel, T. Sakamoto, G. Sato, M. Suzuki and J. Tueller)

マグネターとは

「マグネター」とは、極めて強力な磁場を持つ中性子星のことです。中性子星は、大きな星が死を迎えた時に中心に残る「芯」の一種で、重さは太陽と同等なのに大きさは富士山ほどしかないという、とても高密度で、大きな重力と強い磁場を持っています。これまでに、磁場の強さが地磁気(1ガウス弱)の10億倍から、10兆倍ほどのものまで存在することが知られていましたが、最近になって、更にそれを上回る、1000兆倍もの磁場(1000兆ガウス)を持つ中性子星の証拠が見つかり始めました。これが「マグネター」であり、まさに磁場の塊のような星という意味です。このような、極限の磁場を、どのように保持しているのか、そのからくりはまだ全く分かっていませんが、巨大なエネルギーが必要なことはだけ間違いありません。軟ガンマ線リピーターの大爆発は、この磁場の源が数パーセント崩壊することで起きたのだと考えられます。たかだか数パーセントですが、そのエネルギーは巨大で、おそらく中性子星の地殻の一部が大規模に破壊されただろうと言われています。

SGR1806-20からの巨大フレア

SGR1806-20から検出された巨大フレアのエネルギー放射率は瞬間的に天の川銀河のすべての星の光の合計の数百倍という驚異的な値に達したものと推定されます。この莫大なエネルギー放射のメカニズムは、まだ完全には明らかになっていませんが、普通のパルサーの1000倍に達する強力な磁場を持った中性子星の内部に蓄えられた磁気エネルギーが、1秒足らずの間に解放されたという説が有力視されています。

2004年11月20日に打ち上げられたばかりのSwift衛星は、まだ試験運用期間でした。しかし、幸いなことにガンマ線を検出するためのBAT検出器は動作しており、凄まじい強度のガンマ線が図のように視野外から入射する様を捉える事に成功しました。

SGR Direction  
Light Curve  
D.M. Palmer et al. Nature, 2005

上の図は、Swift搭載BAT検出器がとらえた、SGR1806-20からのガンマ線の強度変化です。横軸が時間で巨大フレアの瞬間を原点として秒単位であらわしています。縦軸は、BATで検出したガンマ線光子数を一秒単位で表示したものです。巨大フレアの瞬間から数秒は、一秒間に3万発を超えるようなあまりに強いガンマ線が入射したため、正しく光子数を数えることができなくなっています。やが て、少し暗くなってくると中性子星の7.56秒の自転にともなって、周期的にパル スが届いていることがわかります。フレアがあったとき、BAT検出器は、SGRから、105度はなれた空をみていました(フレアは検出器の斜め後ろからやってきました)。フレア発生後38秒から143秒の間にSwift衛星は予定の観測計画にした がって衛星の向きをかえました。この姿勢変更によって、SGRとBATの光軸方向 は、105度から61度にまで縮まったため検出器の効率が上がり、見かけ上SGRが 明るくなったように見えています。その後、175秒から、Swift衛星は再び姿勢 を変更しSGRは視野から外れていったため、再び、暗くなったようにみえてい ます。最終的な光軸とSGRの離角は70度でした。 下の図は、SGR1806-20からの巨大フレアの瞬間の0.8秒のガンマ線の強度変化を取り出して表示したものです。
右の図は、SGR1806-20からの巨大フレアの瞬間の0.8秒のガンマ線 の強度変化を取り出して表示したものです。
D.M. Palmer et al. , 2005
(astro-ph 0503030)
Light Curve  

Swift衛星と日本のグループの貢献

Swift衛星は宇宙最大の爆発現象「ガンマ線バースト」の正体を探るために,NASAを中心として国際共同で開発された衛星です。このミッションには, 2000年よりJAXA宇宙科学研究本部,埼玉大学,東京大学が参加し,検出器チームの一員として主検出器BAT(Burst Alert Telescope)の開発、特にその評価試験とガンマ線スペクトルを求めるために必要な検出器応答のモデル化の作業に携わってきました。また打ち上げ後は、実際の天体を観測したデータをもとに、予定通りの感度や分光性能が出ているかどうか、検証しています。

Swift衛星が主な観測対象としている「ガンマ線バースト」は、とても激しい爆発現象なのですが、何億光年も離れた遠い銀河で発生する現象なので、地球に到達するころには弱まっており、視野外からの漏れ込みが問題になることはありません。しかし、ガンマ線はもともと非常に高い透過力をもちます。今回の SGR 1806-20は、私たちの銀河(天の川銀河)内で発生したので、ガンマ線バーストよりはるかに明るくみえます。そのため、望遠鏡の背後からのガンマ線であっても検出することに成功したのです。

ところが、このような視野外からの入射となると、ガンマ線は衛星の構造による遮蔽されたり散乱されたりすることになります。さらに、放射化した衛星の構造物からのX線などが混じり合うので、通常の方法では天体からのガンマ線を抜き出すことが不可能になってしまい、せっかく検出しても意味のある結果を得ることができません。そこで、日本のSwiftチームが中心になって、これまでのX線天文衛星開発の経験を生かして開発してきた、コンピュータシミュレーションが大きな役割をはたしました。人工衛星全体をコンピュータの中に再現し、ガンマ線が引き起こす作用をすべて計算して、逆にSGR1806-20からのガンマ線強度やスペクトルを描き出したのです。この結果、巨大フレアの後に続いたガンマ線のパルス放射のスペクトルの特徴が、数億度という高温の物質からの放射と一致することを確認しました。なお、別の検出器で測定された巨大フレア本体のガンマ線スペクトルは、さらにこの10倍も高い温度の特徴を持っており、これらガンマ線放射の生成メカニズムに興味が持たれます。


図1: 宇宙での「標準光源」である「かに星雲」からの観測データ(十字)。実線でしめした  予測スペクトルと5%の精度で一致していることを確認した。

CrabSpec  

図2: SGR1806-20の巨大フレアに先行したフレアからのガンマ線スペクトル(十字)と、天体からのガンマ線に衛星構体の影響を含めた  コンピュータシミュレーション結果(実線)。両者はほぼ一致している。

SGR Spec  

現在のSwift衛星の状況

Swift衛星は、打ち上げ後45日間に、衛星の姿勢制御パラメタの調整や、各検出器の起動作業を行い、その後、約3ヶ月間に渡って、検出器の軌道上較正試験を実施し、BAT検出器のエネルギー応答、時間応答、および撮像の精度を向上させる作業を行ないました。4月からは本格的な運用を開始し、そのデータは全世界に公開されています。BAT検出器は、2005年4月現在で、すでに34個のガンマ線バーストの検出に成功しています。
(詳しくは、日本Swiftチームのホームページまで)

2005年3月、天文学会における発表

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Last Update 2005/04/28