光子のエネルギーが100キロ電子ボルトを超えると、ガンマ線といわれる領域にはいります。
その後、テラ電子ボルトという超高エネルギーにいたるまで、
「ガンマ線」とよ
ばれますが、その源となる物理過程
は様々です。X線が、加熱された高温プラズマからの放射を
主に見ていたのに対し、ガンマ線は、それに加えて、原子核の崩壊のプロセス、加速され
た相対論的な荷電粒子に伴う放射が主体となります。
有名なカニ星雲からは、電波から、数10テラ電子ボルトにおよぶガンマ線にいたるまで、広いエネルギー範囲での放射が観測されています。こうした高いエネルギーのガンマ線の存在は、電子や陽電子などの荷電粒子が、非常に高いエネルギーにまで加速されていることを示していて、宇宙に巨大な加速器が存在していることを示唆していることになります。
他にも、超新星爆発で作られる重い原子核の崩壊や粒子・反粒子の対消滅などによってもガンマ線が放射されます。このように、ガンマ線領域は、宇宙で起きている高温、高エネルギー現象と直接関係しており、その核心に迫ることができる窓として、宇宙物理学の重要な課題を豊富に含んでいます。
ガンマ線天文学は、X線天文学よりも長い歴史を持ちますが、観測が難しく、進歩が遅れてい
ました。しかし、ロシアとフランスが共同で開発したGranat衛星(1989年打ち上げ)、そして
アメリカのコンプトンGRO衛星(1991年打ち上げ)以来、その進歩はめざましく、まさに大躍進をとげているといってよいでしょう。
CGRO衛星は、4種類の検出器を搭載し、総重量が何トンにも及ぶ巨大な衛星で数10 keVから10 GeVという広いエネルギー範囲でガンマ線の観測をおこないましたが、2000年にその寿命を終えました。また、Granat衛星に搭載され、100 keVから1 MeVのエネルギーでイメージング観測を行ったSIGMA検出器もロシアの宇宙ステーションミールと共に大気に突入しました。しかし、21世紀にはいり、INTEGRAL衛星が2002年、Swift衛星が2003年、AGILE衛星が200X年、GLAST衛星が2006年と、次々と新しいガンマ線衛星の打ち上げが計画されています。日本でも、2000年2月に軌道投入を行うことができなかったAstro-E衛星の再挑戦として、Astro-E2衛星が2005年に打ち上げられる予定です。
Astro-E2衛星に搭載される硬X線検出器 (HXD)は、様々な新しいアイディアにより、数10 keVの硬X線から600 keV前後のソフトガンマ線の領域にかけて、過去のいかなるミッションよりも、1桁以上も高い感度を実現しようとしています。HXDによって日本は、独自の科学衛星を使った、はじめてのガンマ線天文学に一歩踏み出す事になるのです。
Astro-E2やINTEGRALまた、GLASTなどの衛星が打ち上げられても、数10 keVから数10 MeVのエネルギー範囲は、
X線で、私たちが到達しているような感度には、まだ、程遠い状況です。それは、このエネルギー範囲の
観測手段がまだまだ未開発だからです。私たちは、こうした状況を改善し、新しいガンマ線天文学をひらくために
新しい概念にもとづいた検出器の開発を進めています。
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