ガンマ線天文学 Gamma-ray Astronomy


はじめに

最近、 電波・X線・ガンマ線の観測が進むにしたがって、ほとんど光の速さにまで加速された荷電粒子が 宇宙のいたるところに存在することが明らかになってきました。こうした 高エネルギー粒子の加速は、超新星爆発から、銀河、銀河団、そしてブラックホール から吹き出すジェットにいたるまで、さまざまな環境で見られる宇宙の普遍的な 現象であると考えられるようになっています。

この事実は、宇宙のエネルギー全体を考えるときに、われわれが これまで考えていた熱的なエネルギーとは異なり、加速された 粒子のように、非熱的な形態をとる エネルギーが大きな役割をはたしていることを示唆し ます。

宇宙でのガンマ線の観測は、これまでに、十分な研究が行われてこなかった、 この「非熱的なエネルギー」を探るための 重要な観測手段なのです。そのため、 2005年に打ち上げられた「すざく(ASTRO-E2:アストロ E2)」衛星に搭載された硬X線検出器、2002年に打ち上げられたヨーロッパのINTEGRAL(インテグラル)衛星、また、本研究室が貢献している国際協力ミッションのフェルミ衛星やSwift(スイフト)衛星と、新世紀のガンマ線衛星は、大きく期待されています。

Sub MeV ガンマ線領域

MeV ガンマ線の観測


解説

 

ガンマ線天文学

HXD
Astro-E衛星のために開発されたHXD検出器
硬X線からガンマ線にかけての感度の高い観測を行う。 現在、このHXD検出器の再製作が進められている(宇宙科学研究所)
はじめに
超新星爆発と核ガンマ線
超新星残骸での粒子加速
電子陽電子消滅線
ブラックホールとガンマ線観測
活動銀河核
ブレーザー天体とジェット
銀河団
宇宙ガンマ線背景放射
ガンマ線バースト

はじめに

光子のエネルギーが100キロ電子ボルトを超えると、ガンマ線といわれる領域にはいります。 その後、テラ電子ボルトという超高エネルギーにいたるまで、 「ガンマ線」とよ ばれますが、その源となる物理過程 は様々です。X線が、加熱された高温プラズマからの放射を 主に見ていたのに対し、ガンマ線は、それに加えて、原子核の崩壊のプロセス、加速され た相対論的な荷電粒子に伴う放射が主体となります。

有名なカニ星雲からは、電波から、数10テラ電子ボルトにおよぶガンマ線にいたるまで、広いエネルギー範囲での放射が観測されています。こうした高いエネルギーのガンマ線の存在は、電子や陽電子などの荷電粒子が、非常に高いエネルギーにまで加速されていることを示していて、宇宙に巨大な加速器が存在していることを示唆していることになります。 他にも、超新星爆発で作られる重い原子核の崩壊や粒子・反粒子の対消滅などによってもガンマ線が放射されます。このように、ガンマ線領域は、宇宙で起きている高温、高エネルギー現象と直接関係しており、その核心に迫ることができる窓として、宇宙物理学の重要な課題を豊富に含んでいます。

ガンマ線天文学は、X線天文学よりも長い歴史を持ちますが、観測が難しく、進歩が遅れてい ました。しかし、ロシアとフランスが共同で開発したGranat衛星(1989年打ち上げ)、そして アメリカのコンプトンGRO衛星(1991年打ち上げ)以来、その進歩はめざましく、まさに大躍進をとげているといってよいでしょう。

CGRO衛星は、4種類の検出器を搭載し、総重量が何トンにも及ぶ巨大な衛星で数10 keVから10 GeVという広いエネルギー範囲でガンマ線の観測をおこないましたが、2000年にその寿命を終えました。また、Granat衛星に搭載され、100 keVから1 MeVのエネルギーでイメージング観測を行ったSIGMA検出器もロシアの宇宙ステーションミールと共に大気に突入しました。しかし、21世紀にはいり、INTEGRAL衛星が2002年、Swift衛星が2003年、AGILE衛星が200X年、GLAST衛星が2006年と、次々と新しいガンマ線衛星の打ち上げが計画されています。日本でも、2000年2月に軌道投入を行うことができなかったAstro-E衛星の再挑戦として、Astro-E2衛星が2005年に打ち上げられる予定です。

Astro-E2衛星に搭載される硬X線検出器 (HXD)は、様々な新しいアイディアにより、数10 keVの硬X線から600 keV前後のソフトガンマ線の領域にかけて、過去のいかなるミッションよりも、1桁以上も高い感度を実現しようとしています。HXDによって日本は、独自の科学衛星を使った、はじめてのガンマ線天文学に一歩踏み出す事になるのです。

Astro-E2やINTEGRALまた、GLASTなどの衛星が打ち上げられても、数10 keVから数10 MeVのエネルギー範囲は、 X線で、私たちが到達しているような感度には、まだ、程遠い状況です。それは、このエネルギー範囲の 観測手段がまだまだ未開発だからです。私たちは、こうした状況を改善し、新しいガンマ線天文学をひらくために 新しい概念にもとづいた検出器の開発を進めています。

超新星爆発と核ガンマ線

超新星は爆発するたびに、重元素を作り、それを銀河の中にばらまきます。したがって、寿命の異なる放射性同位元素からの核ガンマ線が銀河系の中にどのように分布しているかを測定することができれば、わたくしたちの銀河系における超新星爆発の歴史を知り、その銀河系の成立ちを知ることができるわけです。CGRO衛星のCOMPTEL検出器はメガ電子ボルト (MeV = 1000,000 eV)に感度を持ち、コンプトン散乱の原理を使って光子の到来方向を知ることが できました(コンプトン望遠鏡)。COMPTEL検出器は半減期が71万6000年のアルミニウム26からの1.8MeVのガンマ線を用いて銀河面を探査し、何か所かの強度の高いところを見つけました。これらのうちのあるものは、銀河の腕に位置し、大量に星が生まれているところに一致していると考えられています。

電子陽電子消滅線

  • 電子陽電子消滅線 ( ISAS News, 1998, 1月 )

    ブラックホールとガンマ線観測

    宇宙には、銀河の中心部が異常に明るく、せいぜい太陽系くらいのサイズの領域から銀河全体からの放射を数100倍から数1000倍も上回るエネルギーを放出している高エネルギー天体が沢山存在しています。これらの天体は、電波からガンマ線までの極めて広い波長域にわたって輝いており、そのエネルギー源は太陽の100万倍から数億倍にものぼる重さをもつ巨大ブラックホールへ、周りのガスが降り注ぐ事によって起こる重力エネルギーの解放であるとされています。「あすか」衛星をはじめとするX線衛星によって、この巨大ブラックホールの周辺の降着円盤や、冷たい物質の構造などが次第に明らかになってきました。

    ガンマ線はX線に比べて、より高温の現象を反映するため、ブラックホールのまわりで、電子がどの位まで加熱されているかを調べることができます。さらに、透過力が強いため、まわりを物質に囲まれX線では吸収されてしまって見えていなかったような活動銀河核からの放射を検出する事ができます。CGRO衛星のOSSE検出器は、数100キロ電子ボルトまでの観測を行って、X線では「隠されて」いた活動銀河核NGC4945からガンマ線が強く放射されていることを発見しました。こうした天体からのスペクトルを精度よく観測するためには、バックグラウンドを低く抑え、点源に対して高い感度を持った検出器が必要です。Astro-E2衛星のHXD検出器を用いることで、これまで、観測されてこなかったこうした天体の研究が、一気に進むことが期待されています。


    教科書、参考文献


    Last Update 2004/01/04
    Maintained by T.Takahashi