Swift衛星がはじめて
ショートバーストの位置決定に成功--中性子星の合体の証拠か
Nature誌掲載
JAXA宇宙科学研究本部、埼玉大学、東京大学が参加しているSwift衛星は、本年5月9日に300万光年はなれた楕円銀河からの、継続時間が40ミリ秒という非常に短いガンマ線バーストを発見しました。これは「中性子星と中性子星」、あるいは「中性子星とブラックホール」が合体してより大きなブラックホールに進化する様子をとらえたものと考えられます。この結果が今回Nature誌(2005年10月6日号)に掲載されました。 本論文には、本グループの中澤知洋(JAXA宇宙科学研究本部助手)、佐藤悟朗(JAXA宇宙科学研究本部、東京大学博士課程)、鈴木雅也(埼玉大学博士課程)、高橋忠幸(JAXA宇宙科学研究本部教授)、田代 信(埼玉大学助教授)が共著者となっております。 Nature誌の掲載内容の概略
「ガンマ線バースト(GRB)」と呼ばれる天体現象は、非常に高いエネルギーをもつ光子が短時間に爆発的に放射される現象です。1973年に発見されて以来、科学者たちの注目を集めてきました。これは宇宙で毎日のように起こっている現象ですが、あまりにも短時間で終わってしまうため、起源となる天体の特定が難しく、その正体は長く謎に包まれていました。GRBは継続時間によって二つのクラスにわけられていますが、最近になって、そのうちのロングバーストとよばれる2秒以上(ほとんどは数十秒から数百秒)にわったって継続するGRBのほとんどが活発な星形成がおこなわれている銀河で起こっていることがわかってきました。つまり、数億光年から百億光年以上のかなたでおこっている巨大な星の爆発現象(超新星爆発)であることがあきらかになってきたのです。ところがその一方で、ショートバーストとよばれる2秒以下(ほとんどは1秒以下)の現象は、短時間で消えてしまうために、これまで、発生場所の特定がほとんどできていませんでした。これに対し、今回、Swift衛星は、5月9日に発生した継続時間が40ミリ秒というショートバーストの発生場所を、世界で初めて正確に特定することに成功しました。このGRBは、地球から300万光年はなれた楕円銀河の中に周辺部に位置していました。これはこのGRBが、活発な星形成のときにおきる巨大な星の爆発現象とは無関係であることを示しており、むしろ中性子星やブラックホールの合体現象から発生しているとする仮説を支持する結果です。
("The first
localization of a short gamma-ray burst by Swift"
N. Gehrels, L. Barbier, S.D. Barthelmy, A. Blustin, D.N. Burrows, J. Cannizzo,
J.R. Cummings, M. Goad, T. Holland, C.P. Hurkett, J.A. Kennea, A. Levan, C.B.
Markwardt, K. O. Mason, P. Meszaros, P.T. O'Brien, M. Page, D.M. Palmer, E. Rol,
T. Sakamoto, C.L. Sarazin, R. Willingale, B. Zhang, L. Angelini, A.
Beardmore, P.T. Boyd, A. Breeveld, S. Campana, M.M. Chester, G. Chincarini,
L.R. Cominsky, G. Cusumano, M. de Pasquale, E.E. Fenimore, P. Giommi, C.
Gronwall, D. Grupe, J.E. Hill, D. Hinshaw, J. Hjorth, D. Hullinger, K.C.
Hurley, S. Klose, S. Kobayashi, C. Kouveliotou, H.A. Krimm, V. Mangano, F.E.
Marshall, R.N. K. McGowan, A, Moretti, R.F. Mushotzky, K. Nakazawa, J.P. Norris,
J.A. Nousek, J.P. Osborne, K. Page, A.M. Parsons, S. Patel, M. Perri, T.
Poole, P. Romano, P.W.A. Roming, S. Rosen, G. Sato, P. Schady, A.P. Smale, J.
Sollerman, R. Starling, M. Still, M. Suzuki, G. Tagliaferri, T. Takahashi, M.
Tashiro, J. Tueller, A.A. Wells)
Swift衛星BATによるGRB050509Bの検知
右図はSwift衛星に搭載されたバースト検知望遠鏡(Burst Alert
Telescope: BAT)が観測したガンマ線強度の変化です。図は観測した光子のエネルギーによって4つにわけてあり、エネルギーの低い方から高い方へ上から下に並べてあります。横軸が時間で、GRBを検出した時刻の前後0.4秒間が表示されています。
今回のGRBは上から3番目の図に顕著にみられます。爆発的なガンマ線が、40ミリ秒という短い間に集中していることがわかります。
Swift衛星は、このGRBの方向をみさだめると、検知から62秒後に姿勢制御をはじめ、X線望遠鏡「XRT」をむけました。
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N.
Gerhrels et al. Nature 2005
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Swift衛星X線望遠鏡(XRT)による位置決定
XRTは、約1分角(1度の1/60)の精度で天体の位置決定ができるX線望遠鏡です。BATの指示した方向を観測し始めると同時に、しだいに減光していくX線天体を発見しました。これこそ、X線残光とよばれる現象で、GRBの残り火が消えていく様子です。ショートバーストから残光が発見されたは、初めてのことで、これによって観測史上はじめて、ショートバーストを起こした天体の場所を正確に決めることができました。
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ショートバーストGRB050509Bの正体
宇宙にあるブラックホールの多くは、太陽の数十倍もある巨大な恒星が、一生を終えた後に作られると考えられています。このような星の最期には恒星をささえてきた大量の物質が一気に崩壊しブラックホールに流れ込みます。崩れ落ちるときに解放されるエネルギー放射率は、瞬間的に天の川銀河のすべての星の光の合計の数億倍という驚異的な値に達します。このうちのある条件をみたしたものが、ガンマ線バースト(GRB)として観測されますが、あまりにも明るく、百億光年の彼方からであってもはっきりと観測できるほどです。
このような超新星爆発でつくられた中性子星やブラックホールは、爆発の勢いで銀河の中を高速で運動しはじめます。そのうちにまた別の中性子星やブラックホールを捉え、互いの周りをまわる連星を作ることがあります。このような連星は、長い時間をかけてたしだいに近づいていき、二つの星は最期に合体すると考えられます。このときにも、さらに巨大なブラックホールがつくられると同時に、莫大なエネルギーが爆発的に放出されると考えられます。 下の図は、BATとXRTが決定したGRBの位置を、VLTという大型の可視光望遠鏡でとった天体写真の上に、それぞれ赤い○と青い○でしめしたものです。大きな赤い○の範囲に減光していくX線源の場所(青い○)ををみつけました。その部分を拡大したのが左上の図で、青い○が大きな楕円銀河の周辺に位置していることがわかります。 この楕円銀河には、超新星爆発を起こすような若く巨大な星はほとんどないと考えられます。よって、このショートバーストは二つ考えられるGRBの起源の後者、すなわち中性子星やブラックホールの合体によって引き起こされたと考えられるのです。今後同様の観測例を増やすことで、2種類のガンマ線バーストの起源が明確になり、
ブラックホールの形成やその合体といった、極限的な物理現象に迫る事が可能となるでしょう。
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N. Gehrels et al. Nature, 2005
Last Update 2005/10/06
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