現代物理学 (2023)


講義の概要

電圧 V を掛けた方向に電流 I が流れるというのは高校の物理でも習うところだが、物質によっては電圧を掛けた方向に直交した方向に電流が流れるという「ホール効果」がある。この場合、比例関係を I = σ V として σ をホール伝導度というが、さらに特別な状況では、このホール伝導度 σ が e を電子の電荷、h をプランク定数、厳密に e2/h の整数倍となることが 1980 年に実験的に発見され、数年後には理論的に説明された。これを整数量子ホール効果とよび、ここ十年ほど盛んになっているトポロジカル物性の研究の先駆けであり、かつ、もっとも基本的な場合と考えられている。

また、整数量子ホール効果はトポロジカル物性への数理物理的なアプローチにおいても基本的な対象であり、e2/h の偶数倍だけでなく奇数倍が許されるのは、電子が数学的にはスピノルという、360 度回転ではもとに戻らず 720 度回転ではじめて元に戻るもので記述されることに加え、四次元スピン多様体の交叉形式が偶であるという数学的事実に関係していることが知られている。

この講義では、これらの事実について、意欲的な学部二年生なら理解できるよう説明していきたいと思っている。

諸連絡

受講者のかたは ITC-LMS 側のページ もご覧下さい。第一回の Zoom link はそちらに掲載してあります。

第一回のイントロ以外のすべての講義ノートをくっつけたファイルはこちらです

講義で使った Mathematica 資料ファイルはHopfファイブレーションHopfファイブレーションの切断巻き付き数 です。

720度回転してはじめて戻る話については追加で youtube video および具体的に腕の動きと回転操作のなす空間中での軌跡を図示した Mathematica file をつくりました。

期末レポート

レポート問題はこちらです。(7/25に課題5を微修正しました。指摘してくださった学生さんはありがとう!)

レポート作成お疲れさまでした。採点していて思ったことなどをまとめましたのでこちらもご覧下さい。また、レポート課題の一部として編集された wikipedia ページの一覧はこのページの一番下にあげてあります。

日時

火曜二限、10:25 から 12:10 までだが、11:55 に終わることが推奨されています。

日付 内容 資料 コメント
第一回 4/11 教員挨拶、講義の概要、教員への質問 使用したスライド オンラインです
第二回 4/18 メビウスの帯、Hopf ファイブレーション 講義ノート
Hopf バンドル図示
Mathematica の file はクラウドにもあげてあります: Hopf が、公開後二ヶ月ほどで消えるそうです
第三回 4/25 円周バンドルのチャーン数 巻き付き数図示 図示のクラウド版 (Hopf fibration のチャーン数を計算してみましょう、というところまで)
第四回 5/2 量子力学の原理と二状態系 I Hopf バンドルの切断の図示
講義ノート
図示のクラウド版 (Hopf fibration のチャーン数を計算したあと、量子力学にはいり、長さ1の状態で物理的に同じものを同一視すると Hopf fibration になることをみた。)
第五回 5/9 量子力学の原理と二状態系 II (スピン角運動量の期待値が Hopf fibration における射影を与えることを見、z軸まわりの回転を調べた。)
第六回 5/16 量子力学の原理と二状態系 III 講義ノート補遺
第七回 5/23 接続と曲率 講義ノート 講義ノート三ページ目おわりまで。
5/30 授業日程外です。
第八回 6/6 前回のノートの残り、F の積分がチャーン数の 2π 倍になる所の前まで。
第九回 6/13 電磁場との関係 講義ノート 前々回のノートの残り、Hopf fibration の接続はやる時間がなかった。今回の講義ノートの点粒子の作用のベクトルポテンシャルとの結合の前までやった。
第十回 6/20 直線上を動く粒子の量子力学 講義ノート 磁場のない場合の経路積分まで。
第十一回 6/27 磁場中の粒子の量子力学 講義ノート 前回ノート中の磁場中のハミルトニアンと共変微分以外のところをやった。
第十二回 7/4 ホール伝導度の計算 講義資料 ランダウ準位等はやる時間はなかった。磁場中のハミルトニアンが共変微分で書かれることをやり、量子ホール効果の軽い説明をやった。
第十三回 7/11 ホール伝導度とチャーンサイモンズ不変量 講義ノート 量子有効作用があるとするとホール伝導度が e2/h の整数倍であることを導出した。

もともとの講義予定

おおむねこの通り講義は進んでいます。

  1. 数学からはじめる
  2. 量子力学の基礎
  3. 古典力学との関係
  4. 電磁気の下での点粒子
  5. 磁場中の二次元自由粒子系
  6. 代数トポロジー的アプローチ

この講義のレポート課題に関連して編集された wikipedia 項目はこちらのみでした。

email: yuji.tachikawa_at_ipmu.jp