大学院に入学して素粒子論、とくに、弦理論をやりはじめたとして、その後ってどんな道があるのか、というのは自然な疑問だと思います。いろいろな例をプライバシーに問題ない程度に並べてみました。弦理論やりはじめたからといってこだわらずに、自分の好きなことを追い求めて欲しいなというのが主なメッセージです。のせた順序に特に意味はありません。
日本での友達も海外で出来た友達も無差別に載せてありますし、典型的な例がのっているわけでもないのでご注意下さい。
実際、ここに載せた例は突飛な例が多くて参考にならないという苦情を何度か聞きました。それはもっともな批判だと思います。僕の見知っている学生さんでアカデミア外に就職した例では、IT 系および金融が多く、ごく最近は量子コンピュータ関係のベンチャーというのが何件かあります。弦理論の博士号をきちんと取れるならば、就職先が見つからなくて途方に暮れるのは稀かなという感覚です。(2023/1/6追記)
これはどう読んでも自分だ、という記述があって、のせてないでくれ、という場合は僕にメールを下さい。勝手に書いてすいません。
- ポスドクをやったあと、物理学科で弦理論の研究教育をやる。例: 僕
- ポスドクをやったあと、数学科で弦理論の研究教育をやる。僕の友達の例としては: Andy Neitzke
- 僕と四通共著がある Brian Wecht。はポスドク中に Youtube でコメディーバンド Ninja Sex Party をはじめたが、ロンドンの Queen Mary で Lecturer をやったあと、コメディーバンドのほうに注力することに。そちらでは 2017 年に全米ツアーもやって、CD も既に五枚だした。Youtube チャンネルはこちら。
- 僕と同じ頃アメリカのカリフォルニア大某校で博士号をとった Sam Pinansky。その後東京の某所でポスドクをやったが、アメリカ時代にすでに日本オタクコンテンツの魅力に引っかかっていたため、結局日本の某会社に勤めてオタクコンテンツの北米への販売を担当。その後独立して日本のライトノベルを北米に売る会社 J Novel Club をやっている。
- ポスドクをやったあと、バイオインフォマティクスの研究教育へ。僕の直接知っている例としては Raoul Rabadan
- 弦理論のポスドクをやりながら他の分野も研究し、深層学習の本を出した人もいます。
- 博士号を取ってすぐ、もしくはポスドクをしばらくやってから、IT 系企業に。大手のばあいもあり、スタートアップの場合もあり。
- 日本の大学院にしばらく行っていたが、それに飽き足らずアメリカの大学院にかわって弦理論をやり、それでも飽き足らずアメリカの別の大学院に変わってコンピュータサイエンスを専攻、その後シリコンバレーの某超有名企業で働いているというケースも。
- 弦理論の研究者だったが、Wolfram Research に入って Mathematica を開発している人も。
- 博士号を取ってすぐ、もしくはポスドクをしばらくやってから、金融系企業に。アメリカでポスドクをやっていたとき良く聞いたのは、Renaissance Technologies というヘッジファンドで、ここは弦理論ポスドク経験者を多数雇っているので僕らの間では有名だった。
- 日本の大学院で弦理論をはじめたが、それに満足出来ず、現象論に転向、いい論文を沢山かいて博士号も取るが、某コンサル会社に就職。しかしそれに飽き足らず、経済学を専攻しなおし、いまは経済学者。
- 日本の大学院で弦理論をはじめたが、それに満足出来ず、物性物理に転向、その後物性で研究教育をやっている人もいます。
- 日本の大学院で弦理論をはじめたが、それに満足出来ず、医学部に入り直して医者に。
- 日本の大学院で弦理論をはじめたが、それに満足出来ず、司法試験をやって弁護士に。
- Sergio Cecotti 先生。彼は 1993 に BCOV という著名な論文があって、偉い先生なのだが、僕が弦理論をはじめた頃は全然論文を書かず過去のひとだと思い込んでいた。後に知った事には、そのころは政治に転身していて、ウーディネの市長およびフリウリ=ヴェネツィア州の知事を歴任していた。しかし僕がポスドクをはじめてしばらくしてまた弦理論に戻ってきて、突然また重要な論文を連発している。上記 1993 の論文のあと政治に入ったようで、次の論文はなんと 2008。彼はまた日本のイタコの北イタリア版の benandanti というものの生き残りでもあるらしい。
- 弦理論研究者ではなかったが、もと数学者のJim Simons。30台半ばで Chern-Simons 不変量を編み出し、その後 Stony Brook 大の数学科長を務めたが、それを辞して上に出て来た Renaissance Technologies というヘッジファンドをつくり、世界の大金持ちの上から百人にのるほどまでに達した後、そのお金で研究所をつくったり研究費を配ったり、また時々数学の論文を書いたりしている。