弦理論をやりたいのですが...

弦理論をやりたいのですが、という学部学生さんから相変わらず時々話しかけられるので、いくつか注意を書いておきたいと思いました。以下、弦理論というのは、こちらでかいたような研究全般をさした略称だと思ってください、必ずしも弦の研究そのものではありません。(2017/8/8)

弦理論の研究は今は非常に盛りあがっているというわけではありません。

分野において、何か大きな発展があった直後というのは沢山やることがあって沢山のことが一気にわかります。弦理論においては、1984年の「第一革命」、1994年の「第二革命」、1997年の「AdS/CFT革命」の三度大きな画期がありました。今はそれはおさまってある意味静かな状態です。重力の量子化とは何か、等の未解決の大問題は勿論まだまだありますが、それ自身に直接挑戦するのは困難ですし、僕は大問題を解くこと自身に興味があるわけではありません。みな、各自考えたいことを好き勝手にじっくり考えている状況だと思います。

別段僕はこれは悪い状況だとは思いません。数学の整数論などは20世紀はじめくらいからこういう状況だったんではないでしょうか? 分野に歴史ができたということをあらわしているだけではないかと思います。

個人的には、いまはトポロジカル物性と弦理論の絡みが徐々に盛り上がりつつあるんではないかな、と思っていますが、まだよくわかりません。それ以外にも、弦理論に関して、僕が知りたいこと研究したいこと誰かに解き明かして貰いたいことは沢山あります。

日本で弦理論を研究する常勤職が得られると思わないようにしましょう。

日本のアカデミアの状況、特に素粒子理論の職は非常に逼塞しています。たとえばこの記事を読んでください。僕は現在四十すこし前ですが、僕より若い素粒子理論屋で日本で常勤職についている人はごくごく少数です。これは、今からこの分野をはじめようと思っている学生さんには知っていてもらわないといけないことです。

これは日本以外に職がないということではありません。たとえば、中国では最近いろんなところが日本人を含めてスタッフを雇っているので、狙い目かもしれません。また、理論物理でも素粒子論以外はもうすこし職の状況はましなように思います。

こういう状況ですから、学生の間は弦理論でとてもよい研究をして、博士号をきちんととった後、会社や官庁で働いて活躍しているケースがしばしばあります。僕の周りの実例をいくつかみただけですが、数理的な能力に長けている人は最近は社会からもとても求められているようです。

他の分野を選びましょう。

というわけですので、大学院に入って何か研究したい、その後も研究を続けたい、と思う人は、なるべくなら他の分野を選んでください。きっと他にもいろいろ面白い話題があります。

僕個人は、弦理論は大好きです。その精妙な構造は、僕を魅了します。とりあえず、大学院の五年間をかけていろいろ勉強して、研究にも参加してみたい、それだけでいい、というなら、とても面白い内容だと思います。しかし、その後もずっと研究をつづけたい、という人には、ちょっとお薦め出来ないと思っています。