大気球を用いたガンマ線観測

すざく(朱雀)」Astro-E2 2005年7月10日 打ち上げ

Astro-E2 Astro-E2
Astro-E2

概要と搭載機器

科学目的

硬X線検出器(HXD)

フォトギャラリー

「すざく」CGギャラリー

内之浦宇宙空間観測所

すざく衛星のページ

Astro-E2衛星プロジェクトページ

(上左)打ち上げ当日の整備棟 (July/10)

(上右)打ち上げの瞬間 (July/10)+

(左)ランチャーに装着されたM-V-6号機 (July/01)

(下左)M5ロケットの3段目に結合されたAstro-E2衛星

(下中)ノーズフェアリングとAstroE2衛星

(下右)ノーズフェアリングに囲まれたAstroE2衛星

 +)Photo by Scott Porter
Astro-E2 Astro-E2 Astro-E2
(ISAS/JAXA提供)

Astro-E2衛星の概要と搭載機器


Astro-E2

宇宙科学研究所第19号科学衛星Astro-E2は、「はくちょう(1979年)」「てんま(1983年)」、「ぎんが(1987年)」、「あすか(1993年)」に続く、我が国5番目のX線天文衛星として、2005年夏の打ち上げを予定しています。衛星は宇宙科学研究所のMーVー6号ロケットにより、近地点高度250 km、遠地点高度550 kmの楕円軌道に投入、その後、搭載二次推進系により、高度約550 kmの略円軌道へ修正されます。Astro-E2衛星は直径2.1 m、全長6.5m(軌道上で鏡筒伸展後)の大きさを持ち、太陽パドルを広げると5.4 mの幅になります。衛星の重量は1700 kgにもなり、日本の科学衛星としては、これまでにない大型衛星となります。2000年2月、打ち上げロケットの不具合によって軌道投入できなかったAstro-E衛星の再挑戦をかけたミッションです。


X線望遠鏡 (XRT)

Map

「あすか」衛星搭載のX線望遠鏡の有効面積と、結像性能をどちらも倍近く改善した、新しいX線望遠鏡(口径40 cm、焦点距離4.5 - 4.75 m) が5台搭載されます。その特徴は極めて軽量ながら、10 キロ電子ボルトに近い高エネルギーX線に対しては世界最大級の感度を持つことです。特にあすか以来の、日本独特の伸展式光学台(伸展長1.4m)を用い、欧米の大型X線天文台に比べて、小型ながら大面積を実現しています。

担当:名古屋大学、JAXA宇宙科学研究本部、NASA Goddard研究所


X線マイクロカロリメター (XRS)

Map

5台の望遠鏡の内の1台の焦点面には、これまでのX線検出器に比べて、一桁も波長分解能の高い、高分解能X線分光器が搭載されます。この検出器の原理は、絶対温度約0.06度の極低温に素子を冷し、X線入射に伴う素子の微弱な温度の上昇から入射X線のエネルギーを極めて精度良く決めるものです。このような検出器が衛星に搭載されるのは、はじめてです。動作に必要な極低温を軌道上で実現するため、宇宙で動作する、断熱消磁型冷凍機、液体ヘリウム容器(絶対温度1.2 度)、固体ネオン容器(絶対温度17 度)の3段階の冷却システムが新たに開発されました。観測は、0.5 キロ電子ボルトから12キロ電子ボルトの範囲で行われます。 XRSではこれらの冷媒の消費のため、観測期間は打ち上げ後、約3年間と予想されます。

担当:JAXA宇宙科学研究本部、NASA Goddard 研究所、東京都立大学、ウィスコンシン大学、理化学研究所

注) 2005年8月8日、XRSで使用している液体ヘリウムが消失するという不具合が発生し、XRSによる観測は不可能になりました (JAXAプレスリリース)。原因については現在、JAXAとNASAの不具合調査委員会にて調査中です。

X線CCDカメラ (XIS)

Map

5台のX線望遠鏡の内、4台の焦点面上に、X線CCDカメラが搭載されます。 このCCDカメラは、0.5キロ電子ボルトから12キロ電子ボルトのX線領域で、 広い視野での撮像を行いながら精度の高い分光を連続的に行うことが可能です。これはX線領域で過去最高品質の色鮮やかな動画を撮る事に相当します。 4台の望遠鏡を合わせると、高エネルギーX線に対して、世界でも最大級の有効面積を持つことになります。

担当:京都大学、大阪大学、JAXA宇宙科学研究本部、 マサチューセッツ工科大学(MIT)

Map

硬X線検出器 (HXD)

Map

X線望遠鏡でカバーされるX線の何十倍ものエネルギーを持つ硬X線からガンマ線の領域を観測するため、硬X線検出器が搭載されます。このように高いエネルギーまで観測できる装置が衛星に搭載されるのは、日本で初めてです。この検出器はガドリニウム・シリケート結晶を用いた無機シンチレータ(GSO)とシリコン検出器を組み合わせたものです。筒状に伸びた井戸型シンチレーターによって周りからの雑音ガンマ線を低減するなど、様々な工夫により、このエネルギー領域で、これまでにない、高感度の観測が可能になります。

担当:東京大学、JAXA宇宙科学研究本部、広島大学、埼玉大学、金沢大学、理化学研究所、青山学院大学


科学目的 - Astro-E2衛星で切りひらく宇宙観測 -

1. 銀河団の高温ガスと宇宙の構造の進化
宇宙の中でも高温でかつ激しい活動領域からは、X線を中心に多量のエネルギー放射が行われています。例えば銀河が集団となっている銀河団では、1000 万度から1億度の高温ガスの中に銀河が浮かんでいます。X線でしか見えない高温ガスの質量は、可視光で見えている構成銀河の質量の3倍ほどもあり、銀河団の本質を知るためにX線観測が欠かせません1) 。Astro-E2衛星の高分解能分光器を用いることにより、このガスの元素2)の成分と、物理状態とを、これまでとは桁違いの精度で詳しく調べることができるようになります。そのために、はじめて、銀河団中の激しい高温ガスの流れ を解明する3)事ができるようになります。これにより、銀河、銀河団の形成のしくみが明らかになり、宇宙の構造形成がいかに進んできたかを知る手がかりが得られる事が期待されます。

2.ブラックホール流入物質の運動と時空構造
中性子星やブラックホールへ大量の物質が流れ込み、それらの重力エネルギーが解放されてX線で明るく光っていることも良く知られています。Astro-E2衛星の高分解能分光器やX線CCDカメラでは、落下物質のブラックホール近くでの運動を検出することができ、ブラックホール近傍の時空構造の解明4)が期待できます。また、多くの銀河の中心には、巨大なブラックホールが存在していることが、日本のあすか衛星の観測でも明らかになってきています。Astro-E衛星では更に高い感度で、遠くの銀河まで詳しく調べ、その進化を探ることにしています。

3.高エネルギー粒子加速
地上には、非常に高いエネルギーの宇宙線がふりそそいでいます。中には、1個の粒子あたり16ジュール5)という想像を絶するエネルギーに達するものもあります。宇宙には、こうした宇宙線を作り出す「巨大加速器」が存在し、その中で粒子が加速されて高いエネルギーを持つと考えられています。広い波長にわたって観測を行う事のできるアストロ E 2衛星では、高いエネルギーのX線・ガンマ線の観測から、宇宙線の加速がどこで、どのように行われているかを探査し、その起源と加速の機構を探ろうとしています。

注1) こうした高温ガスを閉じこめておくために、観測される質量の5倍近くもの質量を、観測には直接かからない「暗黒物質」が担っている事が示唆されています。
注2) X線の輝線は各元素に特有の波長を持ち、その波長と強度の観測から、元素組成と、温度、電離度等が分かる。
注3) 高速運動のドップラー効果により、見かけの波長がずれることを検出する。
注4)強い重力場の中では一般相対論の効果で、見かけの波長が長くなる。
注5)4カロリー。1グラムの水を4度上昇させる事ができる。

 Astro-E2 衛星は、国内外の様々な機関が密接に協力して開発/準備を進めてきました。観測機器や衛星、そしてロケットの開発ばかりでなく、ソフトウエア、観測計画立案でも、様々な形で共同作業が行われています。これにより、Astro-E2衛星の能力を最大限に活かすことを目指しています。


Astro-E2衛星ギャラリ-

Astro-E2衛星のこれまでの準備状況はこちらへ

内之浦宇宙空間観測所

Map 内之浦宇宙空間観測所

USC/ISAS/JAXA 34m受信アンテナ

USC/ISAS/JAXA 34m受信アンテナの近くから見たM5ロケット整備棟

USC/ISAS/JAXA M5ロケット整備棟

USC/ISAS/JAXA 間近にみるM5ロケット整備棟とM5ロケットの実物大の模型