計画研究 A01 | 負ミュオンビームによる原子分子物理の精密検証と宇宙物理観測への展開 |
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研究代表者 | 東 俊行 (理化学研究所) |
負ミュオンが原子核に捕獲されて生成するミュオン原子と脱励起に伴って
放出されるミュオニック X 線原子に負ミュオンが捕獲される過程をより詳しく見ると, まず, 負ミュオンは高励起状態に捕獲されますが, その後, 崩壊寿命よりずっと短い時間で次々と下のエネルギー準位へ階段を駆け落ちるように脱励起してゆきます。最初は, 元々原子が持っていた束縛電子のすべて(或いは多く)をオージェ電子として次々と弾き飛ばし, 負ミュオンと原子核から構成されるミュオン原子, すなわちエキゾチックな水素様多価イオンが孤立して生成されます。この状態から更に準位間遷移に伴ってミュオン特性 X 線を次々と放出し最終的に基底準位に到達します。
素粒⼦実験や宇宙観測など, 宇宙への根源的な疑問に答えるために⾼い科学⽬標を掲げて実施される研究は, 感度と分解能のたゆまぬ追求の結果として, 極限性能を持つ先端的検出器のミュオン原子というクリーンな系を用いて広帯域にわたる従来の精度を遥かに凌駕する精密分光計測を行うことで, X 線宇宙物理における電子再結合過程のモデル検証や高精度化に格好のベンチマークデータを供給すると期待されます。本研究では, 世界最高強度の超低速大強度負ミュオンビームを用い, 負ミュオンを希薄ガス標的中に停止させることで, 真空中に孤立したミュオン原子を用意します。そして, 宇宙観測のために開発された, CdTe 硬 X 線撮像分光検出器によって, 0.1 mm の精度で停止したミュオン原子の位置を追跡し, 多素子超伝導遷移端マイクロカロリメータ (TES) 検出器によって, 放出される数 keV (電子ボルト) のミュオン特性 X 線のエネルギーを, 数 eV の高分解能 (ΔE/E ∼ 0.001) で観測します。本研究では, 精密化した脱励起, 再結合過程のコード計算から実際の宇宙物理観測で観測される放射スペクトルを算出し, X 線宇宙物理へ汎く展開することをめざしています。
メンバー
研究代表者 | 東 俊行 (理化学研究所 開拓研究本部) | |
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研究分担者 | 渡辺 伸 (JAXA 宇宙科学研究所) | |
山田 真也(立教大学 理学部) | ||
一戸 悠人(立教大学 理学部) | ||
馬場 彩(東京大学 大学院理学系研究科) | ||
井上 芳幸(大阪大学 大学院理学研究科) | ||
研究協力者 | 高橋 忠幸(東京大学 国際高等研究所 カブリ数物宇宙研究機構 (Kavli IPMU) ) | |
岡田 信二(中部大学 工学部) | ||
二宮 和彦(大阪大学 放射線科学基盤機構) | ||
木野 康志(東北大学 大学院理学研究科) |
関連資料
- Hitomi Collaboration, Y. Ichinohe, A. Bamba, Y. Inoue, T. Takahashi, S. Watanabe, S. Yamada et al., “Atmospheric gas dynamics in the Perseus cluster observed with Hitomi,” Publ. Astron. Soc. Jpn. 70, 9-1–32 (2018), DOI: 1-10.1093/pasj/psx138 .
- T. Hashimoto, Y. Ichinohe, S. Okada, S. Yamada et al., “Beamline test of a transition-edge-sensor spectrometer in preparation for kaonic-atom measurements, IEEE Trans. Appl. Supercond. 27, 2100905 (2017), DOI: 10.1109/TASC.2016.2646374 .
- Y. Nakano, Y Enomoto, T. Masunaga, S. Menk, P. Bertier, T. Azuma, “RICE: RIken Cryogenic Electrostatic ion storage ring,” Rev. Sci. Instrum. 88, 033110 (2017), DOI: 10.1063/1.4978454 .
- S. Okada, S. Yamada et al., “First application of superconducting transition-edge sensor microcalorimeters to hadronic atom X-ray spectroscopy,” Prog. Theor. Exp. Phys 2016, 091D01 (2016), DOI: 10.1093/ptep/ptw130 .
- H. Tatsuno, S. Okada et al., “Absolute energy calibration of X-ray TESs with 0.04 eV uncertainty at 6.4 keV in a hadron-beam environment,” J. Low Temp. Phys 184, 930-937 (2016), DOI: 10.1007/s10909-016-1491-2 .