計画研究
B02 マッハ衝撃波緩衝領域での飛行中ミュオン触媒核融合の創生

重陽子(d)と三重陽子(t)にミュオン(µ)を加えてミュオン分子(dtµ)をつくると、この分子内でd + t → 4He + n + 17.6 MeV の核融合反応がおこります。核融合反応後、ミュオンは別のdとtと再びミュオン分子をつくり核融合反応をおこします。この一連の過程によりミュオンが次々と核融合反応をおこす現象は「ミュオン触媒核融合(µCF)と呼ばれています。µCFは将来のエネルギー源として期待され、これまで多くの研究が行われてきましたが、µCFによって得られるエネルギーが、ミュオンを作り出すのに投入したエネルギーに及ばないという問題がありました。

本研究では、µCF にブレークスルーをおこすため、新しいアイディアを提案し、その可能性を検証します。従来のµCFでは、ミュオン分子をつくためには極低温での分子生成反応などの律速過程がありました。新しいアイディアでは、この律速過程を回避するため、ミュオン原子(dµまたはtµ)が高温のtまたはdと衝突する際に核融合反応をおこす過程を採用しました。この分子生成過程を経ない飛行中のミュオン触媒核融合(dµ + t → 4He + n + µ + 17.6 MeV、In Flight µCF ; IFµCF)の研究を理論と実験両面から取り組みます。

理論研究では、厳密な量子少数多体系の理論に基づく「非断熱多分岐反応計算法」を開発し、原子核とミュオン原子・分子の両方の自由度を取り込んだ精密計算を行います。IFµCFの核融合反応断面積の他、実験に関係する様々なミュオン原子過程の計算を、スーパーコンピュータを駆使しておこないます。また、この計算法は取り扱う系の構成粒子に依存する近似を用いない汎用的な計算法ですので、新学術領域内の他の研究の解析にも適用することができます。

マッハ衝撃波干渉領域を含むミュオン標的。重水素と三重水素の混合ガスが、左から右に高速で流れ、マッハ衝撃波干渉領域で気圧が急上昇し、高密度領域をつくります。入射したミュオンはこの高密度領域で止まりミュオン原子をつくり、ミュオン原子衝突により飛行中ミュオン触媒核融合 (IFµCF) をおこします。実験研究では、IFµCFが実現するため「マッハ衝撃波干渉領域を含むミュオン標的(図)」を制作します。この標的は、重水素と三重水素の混合ガスの超音速の気流を衝撃波発生器にあて。衝撃波を生成します。この衝撃波の重ね合わせにより、準安定で高密度な干渉領域を生成します。この装置の利点は、容器自体にかかる圧力が1気圧程度であるため、反応をモニターする検出器等を比較的自由に配置できます。また、ガスを循環させることにより、核融合反応で生じたHe粒子や熱エネルギーを効率よく回収することができます。新学術領域内で開発された高分解能のX線検出器等を利用して、IFµCF過程の中で起こる反応を分析し、理論計算と併せてIFµCFの詳細を明らかにします。

メンバー

研究代表者
木野 康志(東北大学 大学院理学研究科)
研究分担者
佐藤 元泰(中部大学 工学部)
棚橋 美治(中部大学 工学部)
山本 則正(中部大学 工学部)
岡 壽崇(東北大学 高度教養教育・学生支援機構)
研究協力者
中村 哲(東北大学 大学院理学研究科)
能町 正治(大阪大学 核物理研究センター)
河村 成肇(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所)
肥山 詠美子(九州大学 大学院理学研究科)
的場 史朗(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所)
東 俊行(理化学研究所 開拓研究本部)
廣岡 慶彦(中部大学 工学部)
松原 章浩(中部大学 工学部)
高野 廣久(中部大学 工学部)
工藤 博司(東北大学 大学院理学研究科)

関連資料

  • ・Bound and resonance states of positronic copper atoms, T. Yamashita, M. Umair, Y. Kino J. Phys. B: At. Mol. Opt. Phys. 50 (2017) 205002 (11pp) 10.1088/1361-6455/aa8b3b
  • ・Spectra of W19+-W32+ observed in the EUV region between 15 and 55 Å with an electron beam ion trap, H. A. Sakaue, D. Kato, N. Yamamoto, N. Nakamura, and I. Murakami Phys. Rev. A92, (2015) 012504 doi.org/10.1103/PhysRevA.92.012504
  • ・詳細反応モデルを用いた衝撃波とデトネーション波との干渉に関する数値シミュレーション”, 横江博樹, 杉村忠良, 棚橋美治, 流体力学会誌, ながれ, 34, (2015) 157-165. http://id.nii.ac.jp/1141/00377498/
  • ・An Explanation of Microwave Effects by Expansion of Transit State Theories with Disturbed Velocity ,Distributions by Microwave, M. Sato, J. Fukushima, S. Takayama Am. Ceram. Soc. Ceram. Transact., MS&T 13 (2013) 1.
  • ・Gaussian Expansion Method for Few-Body Systems, Hiyama, Y. Kino, M. Kamimura Prog. Part. Nucl. Phys., 51, 223-307 (2003). doi.org/10.1016/S0146-6410(03)90015-9