計画研究
A02 高エネルギー光子ビームで探る原子核内部と中性子星深部

米国ジェファーソン研究所、ドイツ MAMI、東北大電子光センターにおいて得られる高エネルギー電子ビームから生じる仮想光子、光子を用いてラムダハイパー核の精密電磁分光を行い、ΛN 相互作用の荷電対称性の破れ、中重ハイパー核のアイソスピン依存性を従来にない精度で測定し、バリオン力の知見を飛躍的に深めることにより、重い中性子星の問題(ハイペロンパズル)の解決をめざします。

ストレンジクォークを含むハイペロンと呼ばれる粒子は通常の原子核を構成する陽子、中性子と性質が近く、原子核の構成要素になることができます。ストレンジクォークを含む原子核を「ハイパー原子核」と呼びます。ハイパー原子核は地球上には自然には存在しません。しかし、宇宙で最も密度の高い物質であり、星全体がまるまる巨大な 1 つの原子核になっている中性子星と呼ばれる半径 10 km 程度のコンパクト星の中心部にはハイペロンが自然に存在する可能性が議論されてきました。 2017 年に 2 つの中性子星が合体することにより生じた重力波が観測され、鉄より重い元素が中性子星合体により作られたという可能性が議論され、中性子星は今、非常にホットな研究対象になっています。

中性子星の質量と大きさの関係は、その状態方程式(固さを記述する方程式)から導くことができますが、従来の「核力」およびそれを拡張した「バリオン力」の知見に基づくとハイペロンをコアに含む中性子星は太陽質量の 1.6 倍程度にしか重くなれない、という結論が得られます。これはビルのように巨大な豆腐は自重で潰れてしまうため作ることができない、のと同様です。しかしながら、近年、太陽質量の 2 倍の中性子星が複数観測され、中性子星は思っていたよりも「硬い」ことが分かりました。この問題は「ハイペロンパズル」と呼ばれ、原子核物理学において解決すべき極めて重要な問題です。この問題を解決するためには拡張された核力であるバリオン力の深い理解が欠かせませんが、中性子星中心部を直接観測して調べることはできないため、我々は地球上で強力な電子線加速器施設において、仮想光子を用いて中性子星中心部のミニチュアであるハイパー原子核を人工的に作り、その性質を調べる実験を進めます。

ラムダハイパー核を仮想光子を使って電磁生成する。
実験を行うジェファーソン国立研究所 (JLab) の連続電子線加速器施設 CEBAF(米国)。

メンバー

研究代表者 中村 哲(東北大学 大学院理学研究科)
研究分担者 藤井 優(東北医科薬科大学 教養教育センター)  
研究協力者 永尾 翔(東北大学 高度教養教育・学生支援機構/理学研究科)  
金田 雅司(東北大学 大学院理学研究科)  
後神 利志 (京都大学 大学院理学研究科)  
石川 貴嗣(東北大学 電子光理学研究センター)  
肥山 詠美子(九州大学 理学研究院)  
東 俊行(理化学研究所 開拓研究本部)  
木野 康志(東北大学 大学院理学研究科)  
能町 正治(大阪大学 核物理研究センター)  

関連資料

  • T. Gogami et al., “Experimental techniques and performance of Λ-hypernuclear spectroscopy with the (e, e'K+) reaction,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 900, 69–83 (May 2018), DOI: 10.1016/j.nima.2018.05.042 .
  • S. N. Nakamura, T. Gogami, L. Tang for the JLab Hypernuclear Collaboration, “Spectroscopic study of Λ hypernuclei with electron beams at Jefferson Lab,” JPS Conf. Proc. 17, 011002-1–13 (2017), DOI: 10.7566/JPSCP.17.011002 .
  • T. Gogami, … ,Y. Fujii, … , M. Kaneta, S. Nagao, S. N. Nakamura et al. (HKS (JLab E05-115) Collaboration), “Spectroscopy of the neutron-rich hypernucleus 7ΛHe from electron scattering,” Phys. Rev. C 94, 021302(R)-1–6 (August 2016) DOI: 10.1103/PhysRevC.94.021302 .
  • T. Gogami, … , Y. Fujii, … , M. Kaneta, S. Nagao, S. N. Nakamura et al. (HKS (JLab E05-115) Collaboration), “High resolution spectroscopic study of 10ΛBe,” Phys. Rev. C 93, 034314-1–7 (March 2016), DOI: 10.1103/PhysRevC.93.034314 .
  • A. Esser, S. Nagao, … , Y. Fujii, T. Gogami, … , M. Kaneta, … , S. N. Nakamura et al. (A1 Collaboration), “Observation of 4ΛH hyperhydrogen by decay-pion spectroscopy in electron scattering,” Phys. Rev. Lett. 114, 232501-1–5 (June 2016), DOI: 10.1103/PhysRevLett.114.232501 .