計画研究 概要

計画研究 C02 最先端負ミュオンビーム開発
研究代表者 三宅 康博 (高エネルギー加速器研究機構)

ナノスケールにまで収束可能な超低速負ミュオンビームを開発し, 収束負ミュオンビームの走査により, 物質表面の元素分布・同位体分布や化学結合分布を, 非破壊, 極めて高い感度, 3次元, かつナノスケール分解能で可視化する革命的な分析顕微鏡となる走査負ミュオン顕微鏡の創出を目的としています。負ミュオンが物質中の原子に捕獲される際には, ミュオン特性X線が 100%の確率で放出され, しかもそのエネルギーは電子の特性X線に比べ 200 倍も高く検出が容易です。水素やリチウムのような軽元素, あるいは生体の主要な構成要素である炭素・水素・窒素・酸素を高い感度で検出できます。 例えば, 急速凍結した生物試料の表面を削りながら観察することにより, 生体を構成する元素・同位体・化学結合の 3 次元分布を網羅的にナノ分解能で再構成でき, 生物分野にまさに革命的な分析手段を提供します。

従来の J-PARC の負ミュオンビームは世界に誇る大強度ですが, 収束に難があります。そこで本計画ではミュオン触媒核融合反応をビームの冷却手段として利用し, ナノスケール径まで収束可能な超低速負ミュオンビームを開発します。 より微小な点に絞り込む事が可能な「高い空間コヒーレンス(=小さいエミッタンス)」の負ミュオンビームを実現できます。 ミュオン触媒核融合反応により高エネルギーの負ミュオンを数 keV 程度まで冷却, 再加速し, 色収差補正光学系を用いてビームを収束します。 さらに, エネルギー分散の補正装置の開発により, エネルギーと運動量が揃った「高い時間コヒーレンス」を備える負ミュオンビームを開発します。 これら, 高輝度かつ時間および空間コヒーレントに優れた負ミュオンビームを用いて走査負ミュオン顕微鏡を開発し, 3次元の元素分析実験を行います。 最終的には, 世界で初めての超低速負ミュオンビームと走査負ミュオン顕微鏡を実現します。

並行して, 本研究では, 本領域研究の基盤となる J-PARC ミュオン実験施設の, すでに世界最高強度を達成している負ミュオンのビームラインの高度化, 運動量のオンラインモニタと自動調整プログラムによる強収束化を行います。同時に A01 班, B01 班, B02 班を中心とした負ミュオンの研究開発を推進する研究環境を整えます。

装置構成の概念図
本領域で負ミュオン実験が行われる J-PARC 加速器(日本)

メンバー

研究代表者 三宅 康博 (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 (KEK-IMSS) )
研究分担者 永谷 幸則 (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 (KEK-IMSS) )  
Patrick Strasser (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 (KEK-IMSS) )  
研究協力者 下村 浩一郎 (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 (KEK-IMSS) )  
河村 成肇 (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 (KEK-IMSS) )  
山崎 高幸 (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 (KEK-IMSS) )  
竹下 聡史 (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 (KEK-IMSS) )  
反保 元伸 (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 (KEK-IMSS) )  
石田 勝彦 (理化学研究所 仁科加速器科学研究センター)  
梅垣 いづみ (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 (KEK-IMSS) )  
二宮 和彦 (大阪大学 放射線科学基盤機構)  
上野 秀樹 (理化学研究所 開拓研究本部/仁科加速器科学研究センター)  
能町 正治 (大阪大学 核物理研究センター )  

関連資料

  • Y. Miyake, K. Shimomura, N. Kawamura, … , P. Strasser, … , S. Takeshita, … , M. Tampo et al., “J-PARC muon facility, MUSE,” JPS Conf. Proc. 21, 011054-1–6 (2018), DOI: 10.7566/JPSCP.21.011054 .
  • M. Katsuragawa, M. Tampo, … ,Y. Miyake, … , T. Takahashi, S. Takeda, S. Watanabe et al., “A compact imaging system with a CdTe double-sided strip detector for non-destructive analysis using negative muonic X-rays,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A, in press (2017), DOI: 10.1016/j.nima.2017.11.004 .
  • P. Strasser, … , Y. Miyake et al., “The Development of a Non-Destructive Analysis System with Negative Muon Beam for Industrial Devices at J-PARC MUSE,” M. Tampo, … , N. Kawamura, … , K. Ninomiya, JPS Conf. Proc. 8, 036016-1–6 (Sep. 2015), DOI: 10.7566/JPSCP.8.036016 .
  • H. Okamoto, Y. Nagatani “Entanglement-assisted electron microscopy based on a flux qubit,” Appl. Phys. Lett. 104, 062604-1–4 (Feb. 2014), DOI: 10.1063/1.4865244 . pppp
  • K. Terada, K. Ninomiya, … , Y. Miyake, … , N. Kawamura et al., “A new X-ray fluorescence spectroscopy for extraterrestrial materials using a muon beam,” Sci. Rep. 4, 1–6 (May 2014), DOI: 10.1038/srep05072 .