計画研究 概要

計画研究 B03 高偏極RIビームの生成と核・物質科学研究への応用
研究代表者 上野 秀樹 (理化学研究所)

原子核のスピンを道具として用いる他分野への応用研究, 例えば核磁気共鳴(NMR)法に基づく物質科学研究は今日では不可欠なものとなっています。そこではスピンの方向に偏りが生じている核スピン偏極(以下偏極)状態を実現することが技術的な鍵となります。通常の NMR では, 外場を印加することで僅か 0.01% にも満たない偏極核スピンを生成し利用しています。これに対し, 量子ビームを使った物質科学研究として代表的な µSR 法(ミュオンスピン共鳴/緩和/回転法)では, 100% 偏極した正ミュオンビームを直接物質中にドープして NMR に類似した測定を行うことが可能です。ここでは, 偏極度が高いことと(感度は偏極度の二乗に比例), 電磁気的信号の代わりにミュオンのスピン方向に対して非対称に放出される β 線を測定するため, 磁気共鳴に伴うスピン反転を通常の NMR に比べ 11 桁以上高感度に検出できます。これらの利点から µSR 法は既に確立した手法として物質科学研究では世界中で広く利用され, 数多くの成果を創出しています。

しかし µSR 法は, 結晶格子(原子核位置)での局所場やその電気的性質を調べることができないといった弱点があります。これを実現する可能性を秘めているのが RI ビームです。もし同位体の高偏極 RI が生成され不純物として物質中にドープできれば, 物質構造を変えずに元素置換が可能で, また電気四重極モーメントを介して電気的局所場も観測できる可能性があります。このため任意の元素に着目した NMR 研究が可能となり, 機能性発現機構等の直接解明に向けた新たな物質科学研究を拓けると期待されますが, 未だ実現されていません。そこで本研究では原子線共鳴法を適用する新規アイデアに基づき「超低速・高偏極 RI ビーム」という新奇量子ビームを実現し(特に高偏極酸素 RI ビーム), µSR と相補的な役割を果たす β 線検出型 NMR 法による新たな物質科学研究を開拓するとともに, 偏極RIビームと宇宙用検出器を組み合わせた独自の核分光研究を実施します。

本研究班で開発される核スピンの向きが揃った「偏極 RI ビーム」生成装置の概念図。当該装置を含め様々な核スピン偏極 RI ビーム生成技術を用い, これらをプローブとする新たな核物理研究・物質科学研究の開拓を目指します。
本領域で RI ビーム実験が行われる理化学研究所仁科加速器科学研究センター(日本)。

メンバー

研究代表者 上野 秀樹 (理化学研究所 開拓研究本部/仁科加速器科学研究センター)
研究分担者 高峰 愛子 (理化学研究所 開拓研究本部/仁科加速器科学研究センター)  
山崎 展樹 (理化学研究所 開拓研究本部/仁科加速器科学研究センター)  
山本 文子 (芝浦工業大学 理工学研究科)  
ZHENG, Xuguang (佐賀大学 理工学部)  
研究協力者 今村 慧 (理化学研究所 開拓研究本部)  
郷 慎太郎 (理化学研究所 開拓研究本部/仁科加速器科学研究センター)  
田島 美典 (理化学研究所 仁科加速器科学研究センター/開拓研究本部)  
阿部 喬 (理化学研究所 仁科加速器科学研究センター)  
向井 もも (理化学研究所 仁科加速器科学研究センター)  
吉見 彰洋 (岡山大学 異分野基礎科学研究所)  
市川 雄一 (九州大学 理学研究院)  
佐藤 渉 (金沢大学 理工学研究域)  
西畑 洸希 (九州大学 理学研究院)  
渡辺 伸 (JAXA 宇宙科学研究所)  
木野 康志 (東北大学 大学院理学研究科)  
三宅 康博 (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 (KEK-IMSS) )  

関連資料

  • Y. Ito, ..., A. Takamine et al., “First direct mass measurements of nuclides around Z = 100 with an MRTOF-MS,” Phys. Rev. Lett. 120, 152501-1–6 (April 2018), DOI: 10.1103/PhysRevLett.120.152501 .
  • A. Kusoglu, … , H. Nishibata, Y. Ichikawa, H. Ueno et al., “Magnetic moment of the 13/2+ isomeric state in Cu-69: Spin alignment in the one-nucleon removal reaction,” Phys. Rev. C 93, 054313-1–6 (May 2016), DOI: 10.1103/PhysRevC.93.054313 .
  • A. Yamamoto et al., “High-pressure effects revisited for the cuprate superconductor family with highest critical temperature,” Nat. Commun. 6, 8990-1–7 (December 2015), DOI: 10.1038/ncomms9990 .
  • H. Ueno, “Nuclear moments and structure of unstable nuclei,” JPS Conf. Proc. 6, 010009-1–8 (June 2015), DOI: 10.7566/JPSCP.6.010009 .
  • A. Takamine et al., “Hyperfine structure constant of the neutron halo nucleus Be+11,” Phys. Rev. Lett. 112, 162502-1–5 (April 2014), DOI: 10.1103/PhysRevLett.112.162502 .