公募研究 概要

研究課題 A02-2 ラムダ陽子散乱実験実現のためのデータストリーミング型MPPC読み出し回路の開発
研究代表者 本多 良太郎 (高エネルギー加速器研究機構)

宇宙に存在する中性子星の内部は巨大な原子核であり, ミクロな原子核物理とマクロな天体をつなぐ極めて特殊な系です。その中心部ではフェルミエネルギーが s クォークを生成するのに十分な大きさを持つようになり, ハイペロンが出現するだろうという事が自然に予想されます。そのため, 天文観測によって見つかっている中性子星は, ハイパー核物理によって得られた ΛN 相互作用の知見で説明できなければなりません。ところが, 現在見つかっている極めて重い中性子星は [1–2], 現状のハイパー核物理の知見では支えることができず, ブラックホールになってしまいます。そのため, ΛN 間に働く何か強い斥力のソースが必要であり, それは ΛNN などの多体間力であるとするのが主流です。そのような ΛN の多体間力を高精度なハイパー核物分光実験を通して明らかすることが本新学術領域 A02 班の研究目的の 1 つです。

しかしながら, 近年このシナリオについて理論計算の立場から問題提起がなされました。現状の二体の ΛN 相互作用のモデルには, P 波以上の部分波で大きな不定性があり, ハイパー核のデータから多体間力を議論するには精度が足りないというものです [3]。そこで, 本研究では高統計な Λp 散乱実験を J-PARC 高運動量ビームラインにおいて遂行し, 二体の ΛN 相互作用を精密に決定することを目的とします。そのうえで, 高精度なハイパー実験と合わせて中性子星内部を明らかにしていきます。

高統計な Λp 散乱実験を行うためには, まず大量の Λ 粒子を生成しなければなりません。ビーム強度 30 MHz という高強度の二次中間子ビームを供給可能な J-PARC 高運動量ビームラインの特性は, このような要求とよく合致します。ところが, 大強度のビームは大量のイベントを発生させるため, DAQ システム, とりわけトリガーシステムには巨大な負荷がかかります。そこで, 本ビームラインではハードウェアトリガーを廃したデータスリーミング型 DAQ システムの導入が進められています。この DAQ システムでは, 全検出器ヒットをデータストリーミングし, CPU でイベント判別を行います。本公募研究の目的は, Λp 散乱実験を J-PARC 高運動量ビームラインで遂行するために不可欠な, ストリーミング DAQ に対応したファイバー検出器用の新型MPPC 読み出し回路を開発することです。開発する回路は 1 MHz/ch の計測環境で全TDC データのストリーミングを行うために, 非常に高速応答(信号幅10 ns)する PETIROC2 ASIC を信号成形に利用し, なおかつ 4 Gbps のデータリンクを multi-GbE で達成します。これにより高運動量ビームラインにおけるストリーミング DAQ を成し遂げ, Λp 散乱実験を実現可能なものにします。

J-PARC ハドロン実験施設と高運動量ビームライン外観図。
Λp 散乱実験の模式図。Λ粒子を πpK*0Λ 反応で生成し, 標的中の陽子ともう一度散乱させる二重散乱実験です。散乱陽子は標的周辺の検出器で, K*0の崩壊粒子は前方のスペクトロメータで測定します。

メンバー

研究代表者
本多 良太郎
(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所)
研究協力者

関連資料

  • [1] P.B. Demorest et al., Nature 467, 1081 (2010).
  • [2] J. Antoniadis et al., Science 340, 1233232 (2013).
  • [3] M. Isaka et al., Phys. Rev. C 95, 044308 (2017).