公募研究 概要

研究課題 B01-1 小惑星探査機はやぶさ2の回収試料のミューオンによる炭素質物質分析法の確立
研究代表者 中村 智樹 (東北大学)

小惑星探査機はやぶさ2は C 型小惑星 162173 Ryugu(図 1:以下, リュウグウ)に 2019 年 2 月に着陸に成功し, サンプル回収オペレーションも成功しました。2019 年冬にリュウグウを離脱し, 2020 年の 12 月に地球に帰還する予定です。リモートセンシングによるリュウグウ表面の分光観測の結果, リュウグウは非常に暗く, 含水鉱物の吸収を示し, また, 表面物質は少し多様性を示すことが分かりました。波長 550 nm の光の反射率が約 2%と非常に低く, これまでに観測された C 型小惑星の中でも最も暗い一つです。この反射率は同じ C 型小惑星由来である炭素質隕石の反射率と比べても低く, 反射率を下げる原因物質である有機炭素化合物がリュウグウに高濃度に含まれていることを示唆します。

小惑星リュウグウ(左:直径 900 m 程度)と表面の岩石(右:図の横幅が1 m 程度) これまでの本研究の目的は, 当該新学術研究で推進している負ミューオン非破壊元素分析をリュウグウ回収サンプルに適用するため, 必要な精度と空間分解能を達成する分析手法や実験条件を確立することです。リュウグウ回収サンプルに近い物質である炭素質隕石やその模擬物質を分析対象とし, J-PARC において CdTe 半導体イメージング検出器を用いた負ミューオン3次元非破壊元素分析を行います。軽元素, 特に炭素と窒素の 100 ミクロンスケールでの 3 次元分布と元素濃度の定量化を目指します。

本研究代表者の中村は, リュウグウから回収されたサンプルを真っ先に分析する初期分析グループに属し, 回収サンプルのうち粗粒(粒径 1–5 mm 程度)粒子を分析するチームのリーダーです。したがって, 本研究により負ミューオンの分析方法を確立できれば, リュウグウ回収サンプルに適用することができます。中村はこれまで 30 年間, C 型小惑星から飛来した炭素質隕石の物質科学的研究に従事し, これらの隕石に精通しています。また, 過去のサンプルリターンミッションに中核的立場で参画し, 彗星回収サンプル, および, はやぶさ初号機が回収した小惑星サンプルを計画的に分析し, 太陽系始原天体の物質解明と初期太陽系進化の研究に生かしてきました。はやぶさ2号機の回収サンプルを解析することにより, C 型小惑星リュウグウの炭素, 窒素の 3 次元分布と窒素/炭素比を決定し, 現在は近地球型小惑星であるリュウグウが初期太陽系にて形成された位置を推定したいと思います。さらに高温溶融物コンドリュールの炭素濃度測定や超炭素質包有物の特定を通して, リュウグウに残された初期太陽系における固体物質の形成進化の証拠を解読したいと考えています。

メンバー

研究代表者
中村 智樹
(東北大学 理学研究科)
研究協力者
大澤 崇人 (日本原子力研究開発機構)
二宮 和彦 (大阪大学 理学研究科)
小林 詩歩 (東北大学 理学研究科)

関連資料

  • S. Watanabe, … , T. Nakamura (12th/88 authors) et al., “Hayabusa2 observations of the spinning-top-shaped carbonaceous asteroid 162173 Ryugu,” Science 364, 268–272 (2019).
  • K. Kitazato, … , T. Nakamura (8th/58 authors) et al., “Surface composition of asteroid 162173 Ryugu as observed by the Hayabusa2 NIRS3 instrument,” Science 364, 272–275 (2019).
  • S. Sugita, … , T. Nakamura (27th/120 authors) et al., “The geomorphology, color, and thermal properties of Ryugu: Implications for parent-body processes,” Science 364, eaaw0422 (2019).
  • T. Nakamura, T. Noguchi, M. Tanaka, M. E. Zolensky M. Kimura, A. Tsuchiyama, A. Nakato, T. Ogami, H. Ishida, M. Uesugi, T. Yada, K. Shirai, A. Fujimura, R. Okazaki, S. A. Sandford, Y. Ishibashi, M. Abe, T. Okada, M. Ueno, T. Mukai, M. Yoshikawa, J. Kawaguchi, “Itokawa dust particles: A direct link between S-type asteroids and ordinary chondrites,” Science 333, 1113–1116 (2011).
  • T. Nakamura, T. Noguchi, A. Tsuchiyama, T. Ushikubo, N. T. Kita, J. W. Valley, M. E. Zolensky, Y. Kakazu, K. Sakamoto, E. Mashio, K. Uesugi, T. Nakano, “Chondrulelike objects in short-period comet 81P/Wild 2,” Science 321, 1664–1667 (2008).