公募研究 概要

研究課題 B01-2 強相関電子系における負ミュオン捕獲過程でみる電子多体効果
研究代表者 髭本 亘 (日本原子力研究開発機構/東京工業大学)

多くの金属中で, 電子はそれぞれが孤立した自由電子状態として振る舞うわけではなく, 相互作用を及ぼし合いながら運動しております。これは電子の軌道が制限されるなどのためスクリーニングが不完全になり, クーロン相互作用が無視できなくなることなどによるものです。このため電子の多体効果が重要となり, その影響は様々な性質として現れてきます。このような系は「強相関電子系」と呼ばれ, どのような電子状態が実現しているのか, その全貌を理解することは容易ではありません。

このような系においては, 強い電子相関により様々な相転移が起こります。例えばバンド的には金属状態となるべきものが電子相関によりある温度以下で絶縁体となる金属-非金属転移などがあります。また相転移に価数の変化を伴うなど様々な場合があり, それらを知るためには電子状態についての知見が必要となります。しかし特にミクロな立場からの詳細な電子状態そのものの理解は限定的です。

図 1. 負ミュオン捕獲比と電子状態 本研究では電子系における強い電子相関による電子状態の変化が負ミュオンの捕獲過程やカスケード過程にどのような影響を及ぼすのか, そして逆に捕獲過程から電子状態の情報を得ることができるのかを調べていきます。負ミュオンは物質中に打ち込まれたとき, その物質を構成するいずれかの原子に捕獲され, ミュオン軌道に入ります。この際, 重い元素に捕まりやすいという性質を持ちますが, どの元素に捕獲されるかの比率(捕獲比)は自明ではありません。負ミュオンの各元素への捕獲比は, 価数など様々な要因が影響することが明らかになっております。しかしこれまで多体効果に基づく電子状態による影響はほとんど調べられておりません。そこで相転移のような大きな電子状態の変化を受けた際に, 負ミュオンの捕獲比やカスケード過程がどのように変わってくるのかを実験的に明らかにしていきます。これらは電子状態と強い関係を持つことから物性研究の観点からも興味深いだけでなく, 負ミュオンによる元素分析等にも有用な情報を与えてくれます。

メンバー

研究代表者
髭本 亘
(日本原子力研究開発機構 先端基礎センター /東京工業大学 理学院物理学系)
研究協力者

関連資料

  • W. Higemoto, S. R. Saha, A. Koda, K. Ohishi, R. Kadono, Y. Aoki, H. Sugawara, H. Sato, “Spin-triplet superconductivity in PrOs4Sb12 probed by muon Knight shift,” Phys. Rev. B 75, 020510-1–4 (2007).
  • W. Higemoto, T. U. Ito, K. Ninomiya, T. Onimaru, K. T. Matsumoto, T. Takabatake, “Multipole and superconducting state in PrIr2Zn2O probed by muon spin relaxation,” Phys. Rev. B 85, 235152 (2012).
  • W. Higemoto, Y. Aoki and D. E. MacLaughlin, “Spin and time reversal symmetries of superconducting electron pairs probed by the muon spin rotation and relaxation technique,” J. Phys. Soc. Jpn. 85, 091007 (2016).
  • W. Higemoto, R. Kadono, N. Kawamura, A. Koda, K. M. Kojima, S. Makimura, S. Matoba, Y. Miyake, K. Shimomura, P. Strasser, “Materials and life science experimental facility at the japan proton accelerator research complex IV: The muon facility,” Quantum Beam Sci. 1(1), 11 (2017).
  • K. Ninomiya, T. U. Ito, W. Higemoto, N. Kawamura, P. Strasser, T. Nagatomo, K. Shimomura, Y. Miyake, M. Kita, A. Shinohara, K. M. Kubo, T. Miura, “Negative muon capture ratios for nitrogen oxide molecules,” J. Radioanal. Nucl. Chem. 319, 767 (2019).