研究課題 B03-1 | 電池材料研究のための高偏極放射性リチウム及び酸素同位体ビーム開発 |
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研究代表者 | 三原 基嗣 (大阪大学) |
充電式電池として高い性能を示すリチウムイオン二次電池や, 高い発電効率を有する燃料電池は, 広範囲で実用化が進んでおり近年その重要性はますます高まっています。次世代型電池として全固体リチウムイオン電池や固体酸化物形燃料電池が注目されており, 高性能化に向けては, イオンが高速で移動できる材料, すなわち高いイオン伝導率を示す材料がいかに得られるかが鍵となります。電池材料を評価するためには, 信頼できるイオン伝導率のデータを提供することが重要であり, そのための有力な測定手法のひとつとして核磁気共鳴(NMR)法が挙げられます。従来の NMR 法では天然に存在する安定な原子核を利用します。リチウムイオン電池は, リチウムイオンの移動により充電・放電が行われるため, 電極内のリチウムの濃度が充放電にともない変化し, リチウム濃度が低いところでは十分な NMR 検出感度が得られなくなります。また燃料電池については, NMR 可能な酸素原子核の天然存在比が非常に小さいことが研究を阻んできました。
本研究では, この問題に取り組むために, リチウムおよび酸素の放射性同位体(RI)である 8Li や 19O を用いた NMR を実現し, 電池材料中のイオン伝導率測定に利用することを目指します。RI から放出されるベータ線の検出を利用する, ベータ線検出核磁気共鳴(β-NMR)法により, 従来の NMR 法に比べ 10 桁以上も高い感度での NMR 検
出が可能となります。これを実現するために, スピンの方向が揃った(偏極した)8Li および 19O ビームの新たな生成方法を開発します。
全固体リチウムイオン電池
(右)と酸化物形燃料電池(右)の動作の仕組み。
逆運動学反応を用いることにより, 高い偏極度をもち, かつ強度の高い偏極RIビームが得られ, 低濃度領域におけるリチウムイオン伝導研究や新たな酸素 NMR プローブの提供に繫がることが期待されます。またこの方法によりエネルギーの揃ったビームが得られるため, 動作中の電池に対し, ビーム打ち込みの深さを制御することにより電極や電解質中など特定の場所を探索することも可能となります。本研究を通して, 電池材料評価のための新たな測定手法の確立を目指します。
メンバー
- 研究代表者
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三原 基嗣
(大阪大学 大学院理学研究科)
- 研究協力者
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山口 英斉 (東京大学 原子核科学研究センター)
杉山 純 (一般財団法人総合科学研究機構 中性子科学センター)
関連資料
- 三原基嗣, 「β-NMR の基礎と物質研究の新展開」, 表面科学 38, 188–193 (2017), DOI: 10.1380/jsssj.38.188 .
- K. Matsuta, T. Minamisono, M. Mihara et al., “Nuclear moments as a probe of electronic structure in material, exotic nuclear structure and fundamental symmetry,” Hyperfine Interact. 220, 21–28 (2013), DOI: 10.1007/s10751-013-0847-0.
- T. Minamisono et al., “Electromagnetic moments of the β-emitting nucleus 19O,” Phys. Lett. B 457, 9–16 (1999), DOI: 10.1016/S0370-2693(99)00468-2.
- K. Matsuta et al., “Creation of spin polarization in unstable nuclei and correlation-type experiments,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 402, 229–235 (1998), DOI: 10.1016/S0168-9002(97)81652-X.