公募研究 概要

研究課題 C01-1 多重散乱コンプトンカメラの実現による宇宙MeVガンマ線感度の向上と医療への展開
研究代表者 小高 裕和 (東京大学)

観測天文学において中間エネルギーガンマ線, すなわち 0.1–10 メガ電子ボルト(MeV) の帯域は, 依然として未開拓の波長域として残されています。このエネルギー帯域には原子核が放出するラインガンマ線が存在し, 超新星爆発や連星中性子星の合体, ブラックホールなどの高エネルギー天体における核反応の唯一の直接的プローブを提供します。核反応の直接観測は, 宇宙の元素合成プロセスを捉え, 物質の起源を探るために極めて重要であるにもかかわらず, 観測技術の難しさから, これまでほとんど科学的成果が得られていませんでした。本研究計画は, MeV ガンマ線天文学開拓のため, 従来とは異なるアプローチの検出器構成と解析手法を導入します。

私たちが米国の研究者らと提案している GRAMS 計画は, 液体アルゴンの Time Projection Chamber 検出器を気球に搭載し, 同一検出器で反重陽子検出によるダークマター間接探索とコンプトンカメラによる MeV ガンマ線観測を同時に開拓するという新しい実験です。液体検出器の採用により, 高密度かつ大容積の検出器が可能になり, これまでにない大有効面積を低コストで実現できます。しかし, そのためにはハードウェア技術の開発とともに, 新しいガンマ線イベント解析アルゴリズムの開発が必要になっています。本研究計画では, 統計的手法や機械学習の方法を駆使して多重コンプトン散乱イベントの再構成アルゴリズムと画像再構成アルゴリズムを開発し, これを基盤として気球実験の設計と具体的な観測計画の立案を行います。

本研究の成果は, 我が国が世界をリードしてきた半導体コンプトンカメラの解析アルゴリズムにも適用可能で, 大きく感度を向上させることができます。コンプトンカメラは核医学分野, 特に放射線同位体マーカーの画像診断や粒子線治療の照射位置モニタに有用であり, 感度向上による医療被曝の低減や測定時間の短縮が期待できます。
GRAMS 実験の液体アルゴン Time Projection Chamber(TPC) 検出器の概略図。TPC とシンチレーション光を組み合わせて, 単一の検出器で, 3次元の反応位置の決定が可能です。本研究で狙うのは特に中央に示したガンマ線のコンプトン散乱によるイベントの再構成です。

メンバー

研究代表者
小高 裕和
(東京大学 大学院理学系研究科)
研究協力者
一戸 悠人 (立教大学 理学部)
井上 芳幸 (理化学研究所 iTHEMS)
前田 啓一 (京都大学 大学院理学研究科)
馬場 彩 (東京大学 大学院理学系研究科)

関連資料

  • T. Aramaki et al., “Dual MeV gamma-ray and dark matter observatory - GRAMS project,” Astropart. Phys., in press (2019).
  • Hitomi Collaboration, “Detection of polarized gamma-ray emission from the Crab nebula with the Hitomi Soft Gamma-ray Detector,” Publ. Astron. Soc. Jpn. 70, 113 (2018).
  • H. Odaka et al., “Modeling of proton-induced radioactivation background in hard X-ray telescopes: Geant4-based simulation and its demonstration by Hitomi's measurement in a low Earth orbit,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 891, 92–105 (2018).
  • S. Ikeda et al., “Bin mode estimation methods for Compton camera imaging,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 750, 46–56 (2014).
  • H. Odaka et al., “High-resolution Compton cameras based on Si/CdTe double-sided strip detectors,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 695, 179–183 (2012).