研究課題 D01-1 | 惑星量子ビームとミュオン分析の連携で迫る氷天体物質の合成と蓄積 |
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研究代表者 | 木村 智樹 (東北大学) |
私達の最終目的は, 惑星やその周囲の宇宙空間に存在しうる, 生命環境の成り立ちを普遍的に理解することです。
特に注目しているのが, 太陽系内に多数存在する氷天体です。いくつかの氷天体の内部には, 液体の水の海「地下海」の存在が確認されています。地下海には, 地球の海底生物のような, 生命が存在する可能性があります。私達は, 2030年代, 欧州宇宙機関やJAXAと共同で, 木星の衛星である氷天体「ガニメデ」「エウロパ」に探査機を送り込み, 氷天体表面や周囲の宇宙環境を精密に測定します。私達は, それらの環境を, 実験室実験で再現し, 地下海の発生と進化を解き明かしていこうとしています。
図:本研究の概要図。木星の自転や磁場をエネルギー源として加速されたプラズマは, 惑星周囲の宇宙空間を輸送された後に, 氷衛星エウロパ・ガニメデに照射される。照射されたプラズマは地下海から噴出した水や塩で構成される表層物質の乖離や合成(宇宙風化)を担う。本研究では, 宇宙風化で新たに発生した物質を定量化し, その蓄積量から地下海物質の噴出時期や氷衛星磁場の発生時期を制約する。
地下海の発生や進化の鍵となるのが, 氷天体を取り囲む宇宙空間のプラズマです。地球や木星は固有磁場を有し, 自転していますが, 磁場や自転をエネルギー源として, 宇宙空間のプラズマを加速・加熱します。そのプラズマは, 氷天体に照射され, 表面物質に化学反応や劣化をもたらします。これを「宇宙風化」と呼びます。宇宙風化は, 最高何億年にも渡って氷天体表面でゆっくり進行します。
氷天体自身も, 内部の流体物質の運動に起因して磁場を持っており, 惑星プラズマを反射します。氷天体表面の磁場の強弱は, 宇宙風化の度合いに濃淡を生み出します。私達は, 探査機観測と実験室実験の連携で, この濃淡から, 磁場の発生年代を特定します。これにより, 内部物質の分化過程や, 地下海の発生年代について制約を試みます。
本研究では, プラズマ照射実験によって再現した宇宙風化過程において, 表層の模擬物質に新たに合成・蓄積された物質の正体をミュオンビーム分析で解明し, 現実的かつ効率的な宇宙風化の度合いの定量化に挑みます。これにより, 内部物質の表出年代と磁場の発生年代の制約を試みます。
メンバー
- 研究代表者
- 木村 智樹
(東北大学 学際科学フロンティア研究所)
- 研究協力者
-
仲内 悠祐 (JAXA 宇宙科学研究所)
村上 豪 (JAXA 宇宙科学研究所)
木村 淳(大阪大学 理学部)
吉岡 和夫(東京大学 複雑理工)
関連資料
- T. Kimura et al., “Transient internally driven aurora at Jupiter discovered by Hisaki and the Hubble Space Telescope,” Geophys. Res. Lett. 42, 1662–1668 (2015), DOI:10.1002/2015GL063272
- T. Kimura et al., “Jupiter's X-ray and EUV auroras monitored by Chandra, XMM-Newton, and Hisaki satellite,” J. Geophys. Res. Space Physics 121, 2308–2320 (2016), DOI:10.1002/2015JA021893
- T. A. Nordheim, K. P. Hand, C. Paranicas, “Preservation of potential biosignatures in the shallow subsurface of Europa,” Nature Astronomy 2, 673–679 (2018)
- K. P. Hand, R. W. Carlson, “Europa's surface color suggests an ocean rich with sodium chloride,” Geophys. Res. Lett. 42, 3174–3178 (2015), DOI:10.1002/2015GL063559.
- K. K. Khurana, R. T. Pappalardo, N. Murphy, T. Denk, “The origin of Ganymede's polar caps,” Icarus 191, 193–202 (2007)