公募研究 概要

研究課題 D01-3 エキゾチック原子法を用いた宇宙観測およびその応用による新機軸
研究代表者 福家 英之 (JAXA)

負電荷粒子が原子に捕獲されると励起エキゾチック原子が生成されます(負ミュオンが捕獲された場合はミュオン原子(ミューオニック原子)となります)。エキゾチック原子は, その脱励起に伴い, 種に固有の特性 X 線を放出します。この特性 X 線を測定することで捕獲粒子種を同定する「エキゾチック原子法」は, エキゾチック原子の物理を他用途に活用する新しい手法です。本研究では, エキゾチック原子法の宇宙観測および他分野への応用検討を進めます。

エキゾチック原子法の概念図。宇宙線として飛来する反粒子(反原子核イオン成分)をシリコン検出器アレイ内で捕獲して励起エキゾチック原子を形成し, その脱励起で発生する特性Ⅹ線を観測するとともに, 核子対消滅に伴う π 中間子や陽子などの二次粒子群も測定することで, 反粒子種を同定します。 宇宙観測への利用としては, 宇宙線中に極微量に存在する(または存在すると予測されている)反原子核イオン成分の観測が挙げられます。とりわけ反重陽子や反ヘリウムなどの反原子核イオン成分は, 未観測ながら, 暗黒物質や原始ブラックホールなどの未解明の宇宙物理課題を探る手掛かりとして注目されています。現在, エキゾチック原子法を用いた初の宇宙線反原子核観測「GAPS」が計画されています。そこで, GAPS の将来展開の芽出しとして, 既存の測定器設計概念を念頭に, エキゾチック原子法の高度化を探ります。特に, 測定器の中核となるリチウムドリフト型シリコン検出器アレイは, エキゾチック原子の生成ターゲットであり特性 X 線の検出器でもあるという重要な役割を担うことから, シリコン検出器の技術開発による性能向上を目指します。また, シリコン検出器を含む測定器全体の数値シミュレーションを行い, 宇宙線観測の高度化を検討します。さらに, 開発したエキゾチック原子法の他分野への応用展開も検討し, 研究領域内の各計画との連携を図ります。

メンバー

研究代表者
福家 英之
(JAXA 宇宙科学研究所)
研究協力者
清水 雄輝 (神奈川大学)
小財 正義 (JAXA 宇宙科学研究所)
小池 貴久 (大阪電通大学)
HAILEY, Charles J.(米国 Columbia 大学)
PEREZ, Kerstin (米国 MIT)

関連資料

  • M. Kozai, H. Fuke, M. Yamada et al., “Developing a mass-production model of large-area Si(Li) detectors with high operating temperatures,” arXiv:1906.05577 .
  • F. Rogers, M. Xiao, K. M. Perez et al., “Large-area Si(Li) detectors for X-ray spectrometry and particle tracking in the GAPS experiment,” arXiv:1906.00054 .
  • K. Perez, T. Aramaki, C. J. Hailey et al., “Fabrication of low-cost, large-area prototype Si(Li) detectors for the GAPS experiment,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 905, 12–21 (2018), DOI: 10.1016/j.nima.2018.07.024 .
  • T. Aramaki, S. Boggs, S. Bufalino et al., “Review of the theoretical and experimental status of dark matter identification with cosmic-ray antideuterons,” Phys. Rep. 618, 1–37 (2016), DOI: 10.1016/j.physrep.2016.01.002 .
  • T. Aramaki, C. J. Hailey, S. E. Boggs et al., “Antideuteron Sensitivity for the GAPS Experiment,” Astropart. Phys. 74, 6–13 (2016), DOI: 10.1016/j.astropartphys.2015.09.001 .