公募研究 概要

研究課題 A01-5 先端的宇宙X線検出器で迫る多価重イオンの量子電磁力学
研究代表者 中村 信行 (電気通信大学)

多価重イオンのエネルギー準位や相互作用には量子電磁力学効果が顕著に現れます。その代表例はラムシフトであり, 原子核と電子との相互作用によるものです。一方, 電子と電子との相互作用における量子電磁力学効果はブライト相互作用と呼ばれます。これは通常補正に過ぎない小さな寄与ですが, 多価重イオンの共鳴再結合において, 本来主要項であるはずのクーロン相互作用を凌駕する支配的な寄与を示す例があることを研究代表者らは最近の研究で示しました。しかし, 既存の検出器による既存の方法には限界があり, 更なる研究の深化が妨げられています。本研究は, 宇宙観測のために開発された先端的X線検出器, Si/CdTe コンプトンカメラと超伝導転移端マイクロカロリーメータによりその限界を打破し, 電子間相互作用の量子電磁力学を記述するブライト相互作用理論をこれまでにない領域まで迫り試験することが目的です。研究代表者が専門とする原子物理分野と先端的宇宙 X 線検出器の「出会い」により, 世界のどの研究機関も追随し得ない独創的な研究が可能となります。さらに本研究は「原子分子物理の精密検証」という目的を A01 計画研究と共有する他, ミュオン原子物理と多価重イオン物理との間に多くの類似性があることから, 連携により双方の研究をより一層深化させます。また, 研究代表者の所有する多価重イオン生成装置・電子ビームイオントラップのシーズを天文研究のニーズに適用する新たな研究への展開も目指しています。

(左図)電気通信大学の多価重イオン生成装置:電子ビームイオントラップ。
(右図)多価重イオンの共鳴再結合における放射 X 線の非等方性パラメータ。放射の角度分布や偏光に量子電磁力学効果が強く現れる。

メンバー

研究代表者
中村 信行
(電気通信大学 レーザー新世代研究センター)
研究協力者
高橋 忠幸 (東京大学 Kavli IPMU)
渡辺 伸 (JAXA 宇宙科学研究所)
内田 悠介(広島大学)
東 俊行(理化学研究所)
奥村 拓馬(理化学研究所)
岡田 信二 (中部大学)
加藤 太治(自然科学研究機構 核融合科学研究所)
TONG, Xiao-Ming (筑波大学)

関連資料

  • N. Nakamura, “Breit interaction effect on dielectronic recombination of heavy ions,” J. Phys. B 49, 212001 (2016).
  • X. M. Tong et al., “Mechanism of dominance of the Breit interaction in dielectronic recombination,” J. Phys. B 48, 144002 (2015).
  • Z. Hu et al., “Experimental demonstration of the Breit interaction which dominates the angular distribution of X-ray emission in dielectronic recombination,” Phys. Rev. Lett. 108, 073002 (2012).
  • N. Nakamura et al., “Asymmetric profiles observed in the recombination of Bi79+: A benchmark for relativistic theories involving interference,” Phys. Rev. A 80, 014503 (2009).
  • N. Nakamura et al., “Evidence for strong Breit interaction in dielectronic recombination of highly charged heavy ions,” Phys. Rev. Lett. 100, 073203 (2008).