研究課題 B02-1 | 荷電粒子の捕集・輸送装置の開発 |
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研究代表者 | 奥津 賢一 (学習院大学) |
本公募研究では荷電粒子の捕集・輸送装置の開発を通じて, ミュオン触媒核融合由来のミュオンの観測を目標とします。素粒子の一つである負ミュオンは負の電荷を持っている一方で電子の約207倍重い粒子ですので重い電子のように振舞い, 原子や分子の電子と入れ替わることでミュオン原子やミュオン分子を生成することが知られております。特にミュオン分子におけるミュオンの分子軌道径はその質量に反比例することから分子軌道は電子のそれと比べ約 207 分の 1 の大きさになります。このため分子を構成する原子核同士を近づけ, トンネル効果により原子核が接触する確率が大きくなり核反応がおこりやすくなります。
水素同位体間の核反応がミュオンを介して促進される反応はミュオン触媒核融合として知られており, 熱核融合とは異なり低温で反応が起こることから盛んに研究が行われていました。しかし, 反応に未解明の部分が多く, ミュオン数の不足に加えて, エネルギーとして取り出す方法に目途が立たなかったことなどからその後下火になりました。このミュオン触媒核融合では核反応後に原子核は直ちに高エネルギーで離散してしまうため, ミュオン分子を構成していたミュオンがミュオン分子軌道の運動エネルギーを保って放出されると考えられています。このため核反応後のミュオンを直接観測することでミュオン分子の分子軌道の観測が期待できます。
図 1. 輸送装置における荷電粒子の軌跡シミュレーションの様子
一方でこの核反応がミュオン「触媒」核融合と呼ばれるのは核反応後に放出されるミュオン (再生ミュオン) が次の水素同位体核の核反応をミュオンの寿命 (2.2 μs) を迎えるまで複数回手助けするからです。このように再生ミュオンは非常に反応において重要な役割を担っている一方で生成量が少なく, これまで直接観測は難しいものでした。そこで本研究では少量放出される荷電粒子を遠方まで輸送する装置を開発し, これを用いた再生ミュオン検出により核反応の理解, 応用への架け橋になることが期待されます。
メンバー
- 研究代表者
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奥津 賢一
(東北大学 大学院理学研究科)
- 研究協力者
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木野 康志 (東北大学 大学院理学研究科)
永谷 幸則 (高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 (KEK-IMSS))
名取 寛顕 (高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 (KEK-IMSS))
関連資料
- 永谷幸則, 奥津賢一 他, 特願 2020-178286.
- P. Strasser et al., Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 460, 451 (2001).
- K. Okutsu et al., Fusion Eng. Des. 170, 112712 (2021).