公募研究 概要

研究課題 C01-7 高速半導体イメージャによる雷からの MeV ガンマ線フラッシュの精密探査
研究代表者 中澤 知洋 (名古屋大学)

地球大気中では電離損失が大きく, 電子が電場加速されることはないとされてきました。その常識を覆したのが, 雷活動から放射される MeV ガンマ線です。1980 年代末に発見され, 2000 年ごろから本格的な研究が始まった高エネルギー現象で, 今のところ自然界で唯一, 電子が大規模に磁場に起因しない静電場加速を受けている直接証拠です (e.g., Dwyer 2012)。

雷ガンマ線は, 雷雲そのものから数分間放射される「雷ガンマ線グロー」と, 雷放電に同期する突発的 (∼100 μs) な放射「雷ガンマ線フラッシュ」に分かれます。冬の北陸地方は雷活動が活発で, 雲高度が低いためにガンマ線が大気吸収されず, 地上観測に適しており, 世界からも注目されています。我々は GROWTH コラボレーションとしてこの観測を進め, 世界先端の成果を上げてきました。中でも雷ガンマ線フラッシュは, 地上において ∼100 μs の短時間に ∼1.4 μGy という大線量を持つことを確認しました。この現象は >10 MeV のガンマ線を多く含むため, 大気中で光核反応が起き, 高速中性子と陽子過剰核が大量に生成されます。またその線量は決して小さいものではありません。この強力な突発ガンマ線を生む電子の加速場所はどこか, 生み出される最大線量はどれほどか, これが本研究の核心をなす学術的問いです。

雷ガンマ線フラッシュの地上観測では 1 cm2 あたり 1 万個もの光子がたった ∼100 μs 間に到来する極限の高輝度観測となりますが, これを捉えるために我々が着目したのが, 最近実用化された TimePix3 ASIC を用いた半導体イメージャーです。これは 1.56 ns の時間分解能, 53 μm の位置分解能力を持ち, 検出器サイズ 14×14 mm2 をもちます。その厚さは 0.5–2 mm と薄いですが, 位置分解能よりは厚く, 反応した電子のトラックを追跡できます。反応断面積が小さいことは本観測では問題となりません。10 MeV ガンマ線が生む電子陽電子対は検出器外へ飛び出してしまいますが, その軌跡を捉えることでガンマ線の入射方向を知ることができます。

本研究では, 2年間の研究により 10 MeV ガンマ線への観測性能を検証し, その指向性検知能力を実証すること, そして実際に金沢市にある名大チームの観測小屋に設置して観測を試みることを研究目標としています。観測に成功すれば, これにより雷放電の電波観測の位置評定と, 10 MeV ガンマ線の入射方向を比較して, 電子加速の場所の特定を目指します。


図 1. (左) 雷雲中での電子加速とその観測体制の現状。(中央) 金沢の名大チーム観測小屋の様子。(右) TimePix3 シリコン検出器で大強度の 10 MeV ガンマ線の入射方向を電子・陽電子対生成のトラッキングで検出する考え方。

メンバー

研究代表者
中澤 知洋
(名古屋大学 素粒子宇宙起源研究所)
研究協力者
高橋 忠幸 (東京大学 国際高等研究所 カブリ数物宇宙研究機構 (Kavli IPMU))

関連資料

  • Y. Wada, T. Enoto, K. Nakazawa, Y. Furuta, T. Yuasa, Y. Nakamura, …, H. Tsuchiya, “Downward terrestrial gamma-ray flash observed in a winter thunderstorm,” Phys. Rev. Lett. 123, 061103 (2019).
  • T. Enoto, Y. Wada, Y. Furuta, K. Nakazawa, T. Yuasa, K. Okuda, …, H. Tsuchiya, “Photonuclear reactions triggered by lightning discharge,” Nature 551, 481–484 (2017). DOI: 10.1038/nature24630 .
  • K. Nakazawa, G. Sato, M. Kokubun, T. Enoto et al., “The hard X-ray imager (HXI) onboard Hitomi (ASTRO-H),” J. Astron. Telesc. Instrum. Syst. 4(2), 021410 (2018).
  • K. Nakazawa, K. Oonuki, T. Tanaka, Y. Kobayashi et al., “Improvement of the CdTe diode detectors using a guard-ring electrode,” IEEE Trans. Nucl. Sci. 51(4), 1881–1885 (2004).