公募研究 概要

研究課題 C01-9 高時間分解能を実現する半導体検出器の開発と応用
研究代表者 中村 浩二 (高エネルギー加速器研究機構)

【概要】 次世代の高エネルギーコライダー実験用に開発している高時間分解能をもつ半導体検出器を生命・分子イメージ, 医療, 産業界へ応用することを目的とした研究です。我々が主導的に開発している増幅機能付き半導体検出器 (LGAD) は, 単一荷電粒子に対する応答で世界最高レベルの時間分解能 (約 30 ps) を達成していています。本研究は, この検出器を可視光や赤外光に感度のある検出器に改良することを目的としています。


図 1. LGAD検出器の概略
現在我々が浜松ホトニクス社と開発している LGAD 検出器は世界最高レベルの時間分解能 (約 30 ピコ秒) を達成していて素粒子実験のみならず他分野での応用が期待されています。我々はこの検出器の電極を細分化すること, 高い放射線耐性を持つことを目標に研究を行ってきました。図 1 のように一般的な半導体検出器と異なり, LGAD 検出器は電極の下にアバランシェ増幅層を作ることで高電場を生成しアバランシェ増幅を起こし増幅機能を持たせる検出器です。アバランシェ増幅した電子・正孔対は高電場の恩恵で高速で移動するため電極に誘起される信号は一般的な検出器と比較して格段に速く, 高い時間分解能を達成します。

LGAD 検出器をさらに改良して, 検出位置分解能を劇的に改善する静電容量型の LGAD 検出器 (AC-LGAD) のプロトタイプを製造しました。従来のように電極と増幅層が独立に配置されている構造では電極間に不感領域ができてしまいます。これを防ぐため, 一様な増幅層を配置し, 酸化膜を介したアルミ電極から信号を AC 的に読み出すことで不感領域をなくします。電極間での信号のクロストークを最小限にするため n+ のドープ量を少なくし, 抵抗値を上げました。昨年度製造したプロトタイプセンサーを評価した結果, 80 μm 間隔のストリップ型検出器で隣接する電極へのクロストークが 50% 以下となり, 信号の大きさもノイズと分離可能な検出器を製造することに成功しました。

高エネルギー加速器を用いた素粒子実験の粒子衝突点に設置する検出器では, 生成粒子が高いエネルギーを持ち最小電離作用で検出器内を通り抜けるため, 検出器内で生成された電子正孔対を検出することが可能ですが, 可視光や赤外光の場合は, 表面に配置されているアルミ電極でほぼすべて止まってしまい検出器内部にエネルギーを落とすことがなく, 検出することができません。この問題を解決するため, アルミ電極を半透明な電極 (ポリシリコン製) に置き換えた検出器を開発中です。


図 2. AC-LGAD 検出器
  

図 3. 半透明電極検出器

昨年度, すでにポリシリコン製電極を持つ LGAD 検出器を製造していて, ベータ線の応答を初めて観測しました。今後, 可視光や赤外光に対する応答の確認, 時間分解能や位置分解能の測定を行います。

メンバー

研究代表者
中村 浩二
(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所)
研究協力者
原 和彦 (筑波大学 数理物質系)

関連資料

  • K. Nakamura et al., “First prototype of finely segmented HPK AC-LGAD detectors, VERTEX2020-023,” JPS Conf. Proc. (Proc. 29th International Workshop on Vertex Detectors (VERTEX2020)), accepted (2021).
  • K. Sato and K. Nakamura, et al., “Characteristics of silicon strip sensor irradiated up to a proton fluence of 1017neq/cm2,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 982, 164507 (2020).
  • S. Wada, K. Onaru, K. Hara, Y. Unno, K. Nakamura, “Design of a segmented LGAD sensor for the development of a 4-D tracking detector,” Proc. Sci. Vertex2019, 057 (2019).
  • S. Wada, K. Hara, K. Nakamura, et al., “Evaluation of characteristics of Hamamatsu low-gain avalanche detectors,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 924, 380–386 (2019). DOI: 10.1016/j.nima.2018.09.143 .