公募研究 概要

研究課題 D01-7 実時間イメージ相関解析法によるパルス状ビーム利用実験の新展開
研究代表者 門野 良典 (高エネルギー加速器研究機構)

【目的】 本研究では, 入射ミュオンとそれに後続する電子/陽電子/負ミュオン捕獲 X 線などの測定事象との対応を一つずつ同定することが困難である, というパルス状ミュオン利用実験の最も深刻な限界を克服するために, ミュオンを透過する二次元検出器(ホドスコープ)でビームパルス内の個々のミュオンの入射時刻と位置を検出するとともに, 試料中に停止したミュオンからの後続事象の時刻と二次元位置情報をピクセル型検出器を用いて測定し, これら 2 つの二次元画像の相関を取ることで事象間の一対一の対応を同定します(図1)。この方法を後続事象が崩壊陽電子であるミュオンスピン回転(μSR)測定に適用し, パルス幅に制限されない高時間分解能 μSR 測定を実現します。さらに, 後続事象が特性 X 線である低速負ミュオンと組み合わせることで, 空間分解非破壊元素分析の可能性を検証します。これらの実験により, 大強度ビームを活かしつつパルス状ミュオンビーム利用による高時間・位置分解能測定の原理実証を行います。


図 1. 実時間イメージ相関解析法の原理

【研究計画・方法】 本研究では μSR 実験を主要なモデルケースとして, C01 班と連携しながら以下の様な実験を計画しています。即ち, 表面(低速)ミュオンビーム照射実験で典型的な厚み 1 mm 程度の平板状試料を用意し, これを 2 つの二次元検出器で密着して挟み込みます。試料前面の二次元検出器はホドスコープ(低速ミュオンビームを透過し, なおかつその通過した位置と時刻を測定できる検出器)とし, これでビーム照射時にパルスに含まれる全てのミュオンひとつ一つについて透過時刻とその位置の情報を記録します(実時間ミュオン画像)。試料背面に置かれた二次元検出器では, 崩壊電子/陽電子の時刻と位置の情報, X 線については位置とエネルギーの情報を記録します(実時間後続事象像)。最後に, ミュオン画像と後続事象画像の位置相関を解析し, ミュオン-後続事象の対応があると判定される対について, それらの事象の時間差をヒストグラム化, あるいはエネルギーに対応した情報を記録します。本研究ではこれを「実時間イメージ相関解析(Real-time Image Correlation Analysis, RICA)」法と呼びます。RICA 法を適応することで, μSR では微小なミュオンカウンター・陽電子カウンターの対による 1 事象ごとのミュオン崩壊検出を行うことになります。従って, 本質的に直流ミュオンビームによる場合と等価な μSR 測定をパルス状ビームに対して実現することができます。ミュオンが透過する二次元ホドスコープとしては, プラスチックファイバー(断面 0.1 mmφ), 読み出しにアバランシェ・フォトダイオード, (128×128 ピクセル相当), 陽電子画像用にはシリコンピクセル検出器(読み出し集積回路に ToA モード動作 TimePix3 実装, 55 μm ピッチ, 256×256)を応用します。ホドスコープ, シリコンピクセル検出器いずれも 1.5 ns 程度の時間分解能を期待できることから, 最高で 300 MHz 程度の回転信号の観測を実現します。研究計画初年では, J-PARC でのミュオンビーム強度を前提に, μSR 実験について純鉄(室温ゼロ磁場で 48.7 MHz の回転信号), 石英(室温 10 mT で 144 MHz の回転信号)を用いて RICA 法の原理実証の研究をおこないます。計画 2 年目では, 先行する RICA-μSR 研究で明らかになる問題点について対策を施し, 実用化に向けての最適化を行います。さらに, TimePix3 の動作モードを変更し, シリコンに付与されるエネルギーに比例した信号を読み出せるようにします。これと低速負ミュオンビームと組み合わせることで, 負ミュオン入射事象に対応した特性 X 線のエネルギー測定を行い, RICA 法による空間分解能を備えた軽元素についての非破壊分析の可能性を検証します。

メンバー

研究代表者
門野 良典
(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 (KEK-IMSS))
研究協力者
神田 聡太郎 (高エネルギー加速器研究機構 (KEK))
高橋 忠幸 (東京大学 国際高等研究所 カブリ数物宇宙研究機構 (Kavli IPMU) )

関連資料

  • R. Kadono, I. Watanabe, K. Ishida, T. Matsuzaki, and K. Nagamine, “Development of a new μSR spectrometer ARGUS,” RIKEN Accel. Prog. Rep. 29, 196 (1995).
  • K. M. Kojima, T. Murakami, Y. Takahashi, H. Lee, S. Y. Suzuki, A. Koda, I. Yamauchi, M. Miyazaki, M. Hiraishi, H. Okabe, S. Takeshita, R. Kadono, T. U. Ito, W. Higemoto, S. Kanda, Y. Fukao, N. Saito, M. Saito, M. Ikeno, T. Uchida, and M. M. Tanaka, “New μSR spectrometer at J-PARC MUSE based on Kalliope detectors,” J. Phys. Conf. Ser. 551, 012063 (2014).
  • R. Kadono, K. H. Satoh, A. Koda, K. Nishiyama, and M. Mihara, “High transverse field μSR with π/2-RF pulse spin control technique,” Physica B 404, 996–998 (2009).