公募研究 概要

研究課題 C02-1 負ミュオンマイクロビーム生成のためのフラットトップ高周波加速空洞の開発
研究代表者 山崎 高幸 (高エネルギー加速器研究機構)

本研究は E = 1–10 MeV でエネルギー可変な負ミュオンマイクロビーム生成の鍵となるフラットトップ RF 加速空洞の開発を目的としています。負ミュオンマイクロビームが実現されることで, 負ミュオン特性 X 線を利用した元素分析において試料を高い位置分解能で 2 次元スキャン可能となり, さらにエネルギーを変えることによる試料の深さ方向へのスキャン組み合わせることで, バルク試料の 3 次元的非破壊分析などの応用の可能性が拓けます。また, ミュオンコライダーの実現に向けても, ミュオン衝突の輝度(ルミノシティ)を増加させることが重要なマイルストーンとなっており, 負ミュオンビームマイクロビーム生成の意義は大きいといえます。

負ミュオンマイクロビームを生成するためには, 加速器からパイオン崩壊反応によって得られるエネルギー分散の大きな負ミュオンを一旦何らかの方法で冷却した後に再加速する必要があります。負ミュオンの冷却方式としては, 本研究領域の研究計画 C02 においてミュオン触媒核融合(μCF)反応および摩擦冷却を組み合わせる手法が提案されています。本研究では, この超低速負ミュオンの再加速方式として, フラットトップ RF サイクロトロンを想定しており, E0 = 10 keV, ΔE0 = 100 eV の初期エネルギーを持つ超低速負ミュオンを E = 1–10 MeV まで加速することで, 色収差の影響を受けずにマイクロビーム収束可能な, ΔE/E <10–4という超低エネルギー分散の負ミュオンビームが得られるはずです。

フラットトップ RF サイクロトロンによるマイクロビーム生成は重イオン等では既に確立した技術ですが(参照:関連資料), ミュオンは寿命が 2.2 μs と短いため, 従来のサイクロトロンに比べ加速周波数を高くして短時間で効率よく加速しなければなりません。この結果として, サイクロトロン分野で従来用いられてきた同軸共振器を用いることはできず, 従来にない新たな形状のフラットトップ加速空洞共振器を世界で初めて開発することを目指します。

本研究では, 超低速負ミュオンマイクロビームを生成するための超低速負ミュオン再加速方式として, フラットトップ加速システムを備えたサイクロトロンを想定しており, このサイクロトロンにおいて最も重要な開発項目である, 従来にない形状のフラットトップ共振器を開発する。
本研究で開発するフラットトップ空洞は, 通常サイクロトロンで使われる λ/4 共振器(図左)と異なり, 中心領域をショートさせることで λ/2 共振器とする(図右)。この共振器形状は, 住友重機械工業・熊田幸生氏の特許(公開番号2002-43097)に基づくものであるが, 実際に詳細設計し製作を行うのは本研究が初めてである。

メンバー

研究代表者
山崎 高幸
(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 (KEK-IMSS))
研究協力者

関連資料

  • S. Kurashima et al., “Improvement in beam quality of the JAEA AVF cyclotron for focusing heavy-ion beams with energies of hundreds of MeV,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. B 260, 65 (2007).
  • M. Oikawa et al., “Focusing high-energy heavy ion microbeam system at the JAEA AVF cyclotron,” Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. B 260 85 (2007).
  • W. Yokota et al., “Development of Microbeam Formation and Single-ion Hit Technologies at the TIARA Cyclotron,” JAEA-Technology 2014-018.